リハビリテーション処方箋の書き方 オーダーのこつ レポート
(第4回老健医療研究会)
リハビリテーション処方箋の書き方 オーダーのこつ
米満弘之介
護老人保健施設清雅苑理事長、全国地域リハビリテーション支援事業連絡協議会会長
■人間としての尊厳や人間性の回復、生活の自立のために
今日の演題は「リハビリテーション処方箋の書き方」だが、「処方箋」といっても医師が一人ですべてを決めてしまうと誤解されては困る。そこで「リハビリテーションの指示・指導のあり方」と読み替えてお聞きいただきたい。また、ここに参加されている先生方のなかには、外科などの、老健施設には直接関係しないような専門分野をやってこられて施設長になった方が結構いらっしゃるようなので、大変恐縮ではあるがリハビリの基礎的な話が中心になる点はご容赦願いたい。
リハビリは、「心身に障害のある人々の全人間的復権を理念とする」ことが目的である。同時に、「単なる機能回復訓練ではなく、潜在する能力を最大限に発揮させ、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能にし、その自立を促す」ものである。そして「自立した生活への支援を通じて、利用者の生活機能の改善、悪化の防止や尊厳ある自己実現」を図ることが非常に大事な点だ。
一方で、「疾病・障害・加齢によって損なわれる生活機能の改善・向上をめざす」とされてきたリハビリ医療の定義が、最近少々変わってきた。その一因として、2001年にWHOが国際障害分類(ICIDH)を国際生活機能分類(ICF)に改訂したことが挙げられる。「障害」に着目していた分類の視点を、「実際に生きている人間の毎日の生活の機能」を重視する方向に転換したのである。これにより、PT・OT・ST・看護師・ソーシャルワーカー・ホームヘルパー・ケアマネジャーなどの多職種が参加し、「実用的な日常生活における諸活動の自立性の向上を通じて最高のQOLを得る」ことが、リハビリ医療の目的になってきたのである。
すなわち「リハビリ医療=機能訓練」ではなく、機能訓練はリハビリ医療のなかのごく小さい部分になり、人間としての尊厳や人間性の回復、生活の自立が重要視されるようになってきている。
■老年症候群への生活期リハビリが老健施設の役割
リハビリの領域は、医学的・教育的・職業的・社会的なリハビリに分けられ、老健施設においては社会的リハビリの役割が期待される。施設サービスは当然として、通所リハビリや、「リハビリの出前」である訪問リハビリが中心になる。そして障害を持った利用者を中心に、医師やPT・OT・STのリハビリ専門職種、さらにはケアマネジャーなども含めたチームで対応する。そして最近では、老健施設のリハビリに口腔ケアも入ってくるなど広がりをみせている。
高齢者のリハビリ・介護予防の流れは、「予防的活動→治療的活動→介護的活動」の3 つに大きく区分される。予防的活動は体力低下を防ぐ介護予防などが該当し、治療的活動は急性期リハビリ・回復期リハビリなどにより、脳卒中に代表される疾病発症からの早期離床・機能回復をめざし生活自立へのバトンタッチを行う。そして維持期リハビリ・終末期リハビリの介護的活動に移る。維持期リハビリは、最近では地域包括ケア研究会報告書にあるように「生活期リハビリ」と言うようになった。ここでは生活の再建が、そして終末期リハビリでは人間としての尊厳確保が大きな目標となる。
この3 つの区分の基盤には各々、健康増進法・老人保健事業・介護予防事業・医療保険・介護保険などの異なる制度が複雑に絡み合っていてわかりづらい部分もあるが、前述の流れは確実にできている。このうち皆さんに関係の深い生活期リハビリは、急性期・回復期のリハビリに続いて、高齢者の体力・機能の向上・改善、生活環境の整備、社会参加の促進、介護負担の軽減などに努め、高齢者の自立生活を支援するものである。その対象者は、日本老年医学会が提唱する「老年症候群」、すなわち「高齢者に多くみられ、原因はさまざまであるが、治療と同時に介護・ケア及びリハビリが重要である一連の症状、所見を指す」という特性がある。具体的には、①加齢現象、②疾病(特に生活習慣病・認知症・うつ病など)、③廃用症候群、④生きる尊厳の低下、⑤低栄養状態――に注目してほしい。
このなかで⑤は、私が最近特に注目している点で、高齢者の栄養管理は社会的な課題だと考えている。これも含めて、老年症候群は常に急性疾患にかかりやすく、慢性疾患を抱え、要介護状態であることに十分に留意して対応いただきたい。生活機能全体をとらえた
■生活期リハビリの提供を
こうした流れのなかで、回復期リハビリから生活期リハビリへは、ある日を境にスパッと縦に線引きして移行するわけではない。生活期リハビリは生活機能改善リハビリであり、機能回復のための回復期リハビリからは滑らかに、斜めの線を描くようにして移っていくことが非常に大事である。
生活期リハビリを実践するうえでは、生活機能の視点、つまり基本的な日常生活活動(BADL・ADL)、手段的日常生活活動(IADL)、社会生活活動(ASL)から高齢者をとらえることが大切である。私が医師になったころは、食事やトイレが自立しているかどうかといった狭い範囲の基本的なADLに注目しリハビリを提供していたが、今は生活機能全体をとらえて、生きがいを持って社会参加していくようにつなげることが重要で、その場合にASLが大切な視点になる。そして高齢者の生活機能を見る際には、これらに認知機能の視点も加える必要がある。
では、生活機能が低下するのはどのような場合かというと、厚労省の高齢者リハビリテーション研究会がまとめたように、脳卒中モデル・廃用症候群モデル・認知症モデルの3 つに大きく分けられる。
このうち脳卒中モデルは脳卒中や骨折などで、疾病が起こるといきなり生活機能が落ちる。そのためできるだけ早期にリハビリを開始して回復期リハビリにつなげ、その後も断続的な生活期リハビリを行うという流れになっている。生活機能をできるだけ早く回復させ再発予防を図り、悪循環から好状態に変えていくわけである。
また、廃用症候群モデルには廃用症候群として変形性膝関節症のようなものによって次第に落ちていく生活機能を断続的に押し上げ、低下した生活機能を戻しながらリハビリを進めていく。高齢者のリハビリではこれが非常に大事なことである。これによって生活の自立を維持していくことが、老健施設が果たすべき大きな役割の1 つである。
■リハビリの視点を持った多職種で生活全般にかかわる
ところで高齢者の生活構造はどうなっているのかというと、1 次活動・2 次活動・3 次活動の3 つに分けられる。1 次活動は食事や入浴などのセルフケアで、生きるために行うADLである。2 次活動は仕事や家事などの役割活動で、これは加齢とともに減少していく。特に定年を迎えるとどんどん減ってしまう。3 次活動は自由時間で、2 次活動の減少に比例して増えていく部分である。
これが非常に厄介だ。仕事や家事の役割を失って自由時間が増えたときに、一日中寝転んでテレビばかり見て過ごすなど、およそ活動とは呼べないような状態で生活を送りがちで、それが非常に恐ろしいのである。役割の消失と不活発な余暇時間が、生活期にある障害高齢者の陥りやすい生活構造であり、いかに活発な活動につなげていくかが大切である。やはり活動性を向上させるためには、リハビリの視点を持った多職種がその方の生活全般にかかわることが必要である。そして活動を活発なまま継続させることが、生活期リハビリの大きな役割となっている。
■医師は目標を定めサービス全体を管理することが重要
改めて、老健施設におけるリハビリの考え方やマネジメント、生活期リハビリなどについて説明する。
老健施設のリハビリは多職種協働で、医師、PT・OT・ST、看護師、介護職、栄養士、ケアマネジャーなどの多職種が協働作業で行う。これを行うためには、老健施設を支える3 つのマネジメントが重要だ。すなわちケアマネジメント(=ケアプラン)、リハビリマネジメント(=リハビリプラン)、栄養マネジメント(=栄養プラン)の3 つの歯車がうまくかみ合って動かなければならない。
このなかで医師が果たすべき役割は、各々の専門職に対する「指示とリスク管理」である。医師は上記3 つのプランの内容をよく理解し、どういう指示が出せるのかと同時に、リスク管理をどこまでやれるのか、これがリハビリ分野における医師の大きな役割だと私は考える。
リハビリにおけるマネジメント機能強化の考え方では、高齢者の尊厳ある生活を支援する観点から、各専門職が協働してリハビリマネジメントに関する科学的な評価結果に基づいた継続的な品質管理を行い、高齢者の要介護状態の予防や重度化の防止に貢献していくことが必要である。そのためには、まず医師がきちんとした目標を立てること。「なぜこの方は老健施設を利用されるのか」をしっかりととらえ、提供するサービスの目標を定めるのは医師の大きな役割である。そしてサービスを受ける方の自己決定権を尊重し、医療との連携や生活機能改善に向けた多職種のチームリーダーの役割も医師にはある。このほかにもケアマネジメントを注視しながらリハビリを啓発し、リハビリの品質向上につながる指示を出していくこと、すなわち、これらの全体を管理していくことが医師の重要な役割である。
■リハビリの指示ではセラピストを納得させる処方を
では、老健施設におけるリハビリ指示の実践とポイントは何か。それについてお話ししよう。
まず、身体機能評価・ADL評価・精神機能評価・生活環境評価などを踏まえたリハビリの評価を行う必要がある。そして、日本リハビリテーション医学会の『リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン』に基づくリスク管理を実践してほしい。それは事象の発生予防のためではなく、発生時や発生後の一連の取り組みであり、医療の質の確保を通して組織を損失から守ることを目的としているもので、注意事項・禁忌事項やリハビリの中止基準、積極的なリハビリを実施しないケースなどが挙げられている。詳細は各自でご確認いただきたい。
そして対象者の特性に応じたリハビリの処方(指示)を行うことが大事である。リハビリ処方は薬剤の処方と異なり、リハビリの知識を持たない医師にとっては簡単ではない。医師の処方に従い利用者を治療することになるセラピストは、不合理な処方には苦労する。リハビリ処方を出す医師には、リハビリの知識を十分に身につけてほしい。それは医師自身の努力なしでは成し得ない。
リハビリ処方箋の書き方では、治療目的を明記し、セラピストを納得させる処方にしなければならない。経験不足のセラピストには詳細な処方を記載する必要があり、セラピストの限界を超えた処方は出さないこともポイントとなる。そして禁忌事項・注意事項をきちんと示しリスク管理すること、ハイリスクの利用者とはよく話し合って処方を行うこと、手技や器具の選択に関する細かい指示よりもポイントを踏まえた指摘を盛り込むことなどが要点だ。一方、リハビリ職は、リハビリ処方箋の内容に不備・不明な点がある場合は、迅速に医師と内容確認を行い必要に応じて修正することが肝要である。
■多職種協働のチームで行動変容の実現をめざす
われわれ老健施設の最終目的は「運動機能の向上」ではなく「行動変容」である。行動変容は生活そのものであり、生活の自立のための行動変容を大きくとらえておかなければならない。この点を肝に銘じて、老健施設の医師に課せられた大きな役割はそれに向けた目標設定であると覚えていただきたい。
目の前の利用者の生活の自立を高めるために、どういう目標を設定し、どのようなリハビリを提供していくのかであるが、それはその方の評価、つまり課題をどこまで分析できているかに左右される。それにはアセスメントが重要である。ケアマネジャーと一緒に進めていくなかで、医師として医学的なアセスメントをしっかりと行うことが大切である。その際は、個々に異なる環境の調整や、その後の生きざまなどを具体的にとらえて評価することが重要で、それをどこまでできるのかが鍵になる。
そして先ほど述べたようなリスク管理を行いながら包括的な指示を出して、多職種協働のチームでゴールに到達することをめざしてほしい。それが老健施設のリハビリのあり方と考えられる。
(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載