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高齢者の投薬コントロールについて―糖尿病事例を通して―レポート

(第4回老健医療研究会)
高齢者の投薬コントロールについて―糖尿病事例を通して―
大庭建三
日本医科大学老年内科教授

■70歳代後半の方には薬の見直し、減薬の心構えを

 私は高齢者の薬物療法の専門家ではないが、糖尿病が専門なので、その観点から高齢の患者を診るときの注意点について事例などを交えながら説明する。
 人間は、加齢に伴い身体の組成が変わってくる。どういうことかというと、加齢によって細胞や筋肉量が減って、相対的に脂肪の量が増えるのである。筋肉のなかには水分が入っているが、それも少なくなってくる。それから当然、加齢によって生理機能が落ちる。
 こうした影響を受けて薬の作用の仕方が変わってくる。要するに有害事象が起こりやすくなるので、高齢者には注意が必要だ。また、認知症や生活機能の衰え、うつなどさまざまな身体的要因などの影響もある。高齢者に対しては、それらを総合的に考えながら若い人とは異なる対応をしなければいけない。
 特に70歳代半ばを過ぎると、著しく生理機能が落ちてくる。すると、それまで適量だった薬が過量になることが非常に多い。つまり後期高齢者に入る頃には、今まで問題なく使えていた薬を見直し、減薬する心構えを忘れないようにしていただきたい。

■医師だけでなくコメディカルも情報収集を

 次に、高齢者の投薬について、東大病院の老年病科科長・大内尉義教授がまとめた「高齢者における薬物療法の原則と注意」(『老年病ガイドブック』メジカルビュー社)を参考にお話しする。
 大内教授は、①薬物服用歴を詳細に聴取する(他院・サプリメント・漢方薬)、②投与薬剤の体内動態および薬力学の加齢変化を正しく知る、③診断を確実にした後に薬物投与を開始する、④初回投与量を少なくし、その後も頻回に調整する、⑤投与数をできる限り少なくする、⑥服用法を簡明にする、⑦薬剤間の相互作用や疾患との相互作用を常に監視し有害事象の発現を防止する、⑧服薬アドヒアランスに注意する、⑨高齢者に多い症状(老年症候群)を起こす薬剤に注意する――といった9 つの原則と注意点を挙げている。
 私はさらにこれに、⑩高齢者はいつでも薬を減量する心構えを忘れない、を加えたい。
 ①については、当然だが、薬をなぜのんでいるかをまずチェックしなければいけない。ただし老健施設の職員は、利用者の服用歴など薬に関する情報を把握し切れていないことが想像される。ましてやデイケアなど施設の一時的な利用者については、かなり情報が不足しているだろう。難しいだろうが、これは医師だけでなく、コメディカルも日々そうした方に接する際に注意して、情報収集に努めることが大事だ。
 このような例がある。71歳の男性が、がんで胃を摘出した6 年後に糖尿病になった。近くの医師にかかり、α‐グルコシダーゼ阻害薬という糖の分解・吸収を遅らせて血糖値を下げる薬が出された。この薬の特徴は、糖の分解を抑えるのでだんだん腸の下のほうにブドウ糖が流れて発酵し、腹部が張る副作用があることだ。この点に注意が必要だが、非常によく使われている。その薬をのみ始めたところ、5 年間で18回も腸閉塞を起こし、そのうち7 回入院し2 回手術をした。
 この方が腸閉塞で私を訪れたので、薬の副作用を疑って投薬をやめたところ、その後2 年間まったく異常が起こっていない。高齢者にはこうした思いがけないことがある。何かあったときにはいつも、薬との因果関係を考えなければいけない。

■身体の加齢変化を正しく知ることが大事

 前述の②に関連して、薬を使う上では身体の加齢変化を正しく知ることも大事だ。冒頭で触れたように、加齢とともに人間の細胞は減っていく。それによって臓器も小さくなり、機能が落ちてくる。これが老化の本態だ。さらに、相対的に脂肪が増えてくる。こうしたことは当然、薬の作用にも影響してくる。
 細胞は中心に核があり、周りに細胞質がある。細胞質は水分を多く含んでいるので、高齢者は細胞の数の減少に伴い、身体に蓄えられる水分の総量は減少する。
 高齢者はよく脱水症状を起こすが、それはなぜかというと、人間は脱水を起こして細胞外液(血管にある水分など)が足りなくなると、細胞内液の水を一時的に借りて補充する。しかし高齢者は、細胞が減少している分、水分を貯める容量が少ないため、細胞内液を使っても足りず、脱水症状から熱中症まで起こしてしまうのだ。
 さて、薬は消化管を通して身体に吸収されるが、高齢になってもその吸収量は臨床的に大きな問題になるような落ち方はしない。すると、水溶性の薬物であれば細胞の水分量が少ないため、若い人と比べて濃度が高くなり、副作用が起こりやすい。また、脂肪量の相対的な増加は、脂溶性の薬物であれば脂肪に蓄積されるため身体に長く残存することになる。
 さらに、加齢で栄養状態が落ちてくると血清のアルブミンが減少する。薬をのむと、その一部がアルブミンに結合する。結合した薬の成分は身体に作用せず、遊離した成分が働くのだが、高齢者はアルブミンが少ないため遊離する割合が高くなり、薬の血中濃度が上がる。
 そして、薬の代謝に最も大きく影響する臓器は肝臓と腎臓だ。肝臓を通るとかなりの薬物が代謝される。しかし、加齢とともに血流量や薬物代謝酵素が低下するため、薬物代謝が悪くなって血中に残りやすくなる。また、同様に腎臓の機能も著しく低下する。
 アメリカのショック医師が研究したところ、加齢ですべての生理機能は直線的に落ちるが、特に腎機能の落ち方が著しい。30歳の腎臓の機能を100とすると、80歳ではその半分以下の機能しかなく、腎臓が代謝し切れず薬物が蓄積しやすくなる。高齢者を診る際には、こうしたことを頭に入れておくことが基本だ。

■服用を1 回にした場合のみ忘れの影響が大きくなる

 鳥羽研二国立長寿医療研究センター病院長が杏林大学にいらっしゃった頃、現在、東京大学医学部附属病院老年病科准教授の秋下雅弘先生と行った調査では、「加齢とともに副作用が起こりやすくなる」ことや、「多く薬をのんでいれば副作用が起こりやすくなる」ことがわかった。当然のような話だが、その関係がデータできれいに表れた。
 前述の⑤〜⑧に関係するが、つまり副作用を抑えるには、なるべく服用の数を減らすことが大切だ。そして、以前はコンプライアンスと言っていたが、薬をきちんとのむというアドヒアランスが必要になる。
 それに関連して、私の苦い経験を紹介する。私は、糖尿病薬の服用について、服薬回数を少なくするほうが高齢者にとって福音になると考えた。
 スルホニル尿素薬のグリクラジドという糖尿病の強力な治療薬がある。これは効果が長く続くのが特長だが、40ミリ錠を2 錠のむ場合、朝に1 回のむのと朝夕に分けてのむ場合の作用が同じか調べた。結果はまったく変わらなかった。さらに強力なスルホニル尿素薬でも同様に変わらなかったので、2 回のむ必要はなく、1 回でよいと考えた。
 その論文を書くために多くの本を読むうちに、高齢者も若い人も、薬ののみ忘れの頻度はあまり変わらないことがわかった。そして、服用が1 日に1 回と2 回の場合は、7 割の人がきちんとのんでいる。いろいろな研究者のデータを見ると、それを3 回にするとのみ忘れる方が急増していた。多くは昼にのみ忘れるようで、私の目論見は外れてしまったのだ。
 さらに、私は服用が1 回のほうがよいと考えたが、その場合はのみ忘れたときの影響が大きくなる。2 回に分ければ、1 回忘れたとしても半分はのんでいるので、そのほうが安全だという考え方もできるようだ。

■加齢で薬の代謝に必要な酵素の活性も落ちる

 また、薬の種類を多くのめばそれだけ相互作用が増え、有害事象が起こりやすくなる。これは先述した「薬の数が増えれば増えるほど副作用が多くなる」ことと同じ機序だ。
 例えば、スタチンというコレステロールを下げる薬がある。それにはいろいろな種類があるが、脂溶性のものと水溶性のものに大きく分けられる。水溶性のものは代謝されやすい。脂溶性のものには、肝臓のCYPという酵素を介して代謝されるものと、代謝に酵素が必要ないものがある。加齢で酵素の活性が落ちるので、脂溶性でCYPが必要な薬を高齢者がのんだ場合、血中濃度が若い人よりも高くなるだけでなく、身体に長く残存しそうだということになる。そうなれば、もちろん有害事象が起こる可能性は高まる。
 スタチンは安全性が比較的高い薬のため、この程度で深刻な副作用が出ることはないが、別の薬と組み合わせた場合に問題が生じる。
 例えば、スタチンのように脂溶性でCYPの代謝が必要な薬は多い。そうした薬同士を複数同時にのめば、両方で酵素を使うため代謝する能力が落ちる。さらに、それまでそうしたCYPを介して代謝する薬をのんでいるところへ加えて、例えば、爪白癬(爪のカビ)の薬であるイトラコナゾールのような、CYPの代謝を抑制する作用のある薬をのむと、どちらかの副作用が起こりやすくなるのだ。
 1つの例を挙げる。高齢者は調子がよければ、急激に副作用が出ることはそれほど多くはない。新しい薬であれば服用を始めてから1 〜 2 か月以内、もしくは薬の量を増やした際にも多く起こる。
 ところが、私の69歳の男性患者で、22か月も薬をのみ続けていて、急に腸閉塞を起こした方がいた。なぜか。実はこの方は重い糖尿病で、神経や腎臓にも症状が出るほどだった。生理機能も非常に落ちていた。それに加え、入院後に「風邪を引いたから薬がほしい」と言われた当直医が総合感冒剤を出した。この薬には抗ヒスタミン剤が含まれていて腸の動きを抑える作用があったため、腸閉塞を起こしてしまったのだ。
 このように、今ままで服用していた糖尿病薬には何も問題はなかったが、生理機能が非常に落ちている方だったので、風邪で出した総合感冒剤との思いがけない相互作用から重病を引き起こしてしまったのだ。
 高齢者はさまざまな場合に薬が増えるため、相互作用についても念頭に置いておかなければいけない。しかし、副作用を生じるすべての薬の組み合わせを把握しておくことは難しい。そこで必要なのは、副作用を生じやすい薬の組み合わせを覚えるのではなく、新しい薬を出して何らかの事象が起こったときにはまず、薬の相互作用を疑うということだ。

■薬が引き起こす可能性のある高齢者に多い症状とは

 次に、高齢者に多い症状を惹起する薬剤について紹介する。
 患者や利用者が「何かおかしなことを言っている」ということがあれば、「あの人もいい年だから」では済まさないでいただきたい。そうしたときには、70歳代半ばを過ぎて薬の量が多くなったのではないか、何かほかの薬を増やしていないか、薬の投与を間違えていないか――と疑うことが必要だ。繰り返しになるが、高齢者で思わぬ症状が出たら、薬が関与していないかを必ずチェックすることが基本だ。
 これも大内教授がまとめた「高齢者における薬物療法の原則と注意」を参考にするが、高齢者に多い「錯乱症状」や「うつ病」、「転倒」、「起立性低血圧」、「便秘」、「尿失禁」、「パーキンソン病」のような症状を、薬が引き起こしていることがある。
 例えば、血圧を下げるβ遮断薬を処方すると、転倒することが少なくない。転倒は、血圧の薬だけでなく抗精神薬でも起こるし、私の経験では心不全で使用する利尿薬でも非常に多い。つまり、夜間などにトイレに行く回数が増えることで転倒につながるというように、薬の作用によらない転倒の危険もある。
 また、薬の作用で血圧が下がったり、便秘をしたりすることは多い。普段は失禁しない人がした、歩き方がおかしい、手が震えている、といったことに気がついたときは、「新しい薬が加わったためではないか」と考える必要がある。

■回復力が悪いことも高齢者の特徴

 1つ例を挙げる。私は月に2 回、関連する老健施設を訪れるが、そのときに職員から「○○さんはご飯を食べると、食後に時々てんかんを起こします。ちょっと診てください」と言われた。普通に考えれば、それまでてんかんがなかった人が、高齢になってから急にてんかんになることはない。
 しかし、食事をしてしばらくすると目がだんだん上を向き、黙りこんだ後、「うっ」とうなって意識がなくなる症状は、必ず食後に起こるという。
 そこで気がついた。高齢になると食後低血圧が多くなる。その方も食事をすると腹部の血流量が増え、血圧が下がっていたのだ。血圧の薬をやめたところ、てんかんのような症状は起こらなくなった。
 大阪大学の研究では、若い人でも食後の低血圧を起こす人がいる。若い人も高齢者も同じように血圧が落ちるが、若い人はブドウ糖が吸収されるとすぐに血圧が戻るのに対し、高齢者はなかなか戻らない。回復力が非常に悪いことが高齢者の特徴だ。
 薬は私たちが考える以上に扱いが難しい。老健施設では、職員がきちんと利用者の管理をしているので問題はないかもしれない。それでも注意は必要であり、先に述べたように一時的にサービスを利用する方に関しては、特に服薬情報が不足しているだろう。そうした方には十分な注意をしていただきたい。

(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載