高齢者の摂食嚥下と栄養管理 レポート
(第4回老健医療研究会)
高齢者の摂食嚥下と栄養管理
梶谷伸顕
独立行政法人自動車事故対策機構岡山療護センター外科、NSTくらしき作陽大学客員教授
■万病に効く薬はないが、栄養管理は万病に効く
なぜ栄養管理が必要か。日本静脈経腸栄養学会の初代理事長である小越章平医師は、「栄養管理はすべての医療の基本」と言った。万病に効く薬はないが、栄養管理は万病に効く。それくらい重要なことだ。高齢に伴う身体の変化は、まず「基礎代謝量の減少」が生じ、また「糖、たんぱく、脂肪代謝の変化」が起こる。特に糖と脂肪の代謝が低下する。さらに、「LBMの減少」といって、脂肪を除いた骨格筋、骨、内臓などの重量が減少する。最近、「サルコペニア(筋肉の減少)」という言葉を耳にするが、これによってさまざまな障害が起こる。そして腎機能が落ちる。腎機能低下や低たんぱく血症などにより浮腫が起こる。脱水が起こりやすい。低ナトリウム血症を生じることもある。また、アミノ酸の代謝は年を取っても比較的保たれるといわれるが、だからといってアミノ酸(たんぱく)をあまり入れると、腎機能が落ちているのでBUN、クレアチニンが高値となり腎障害を合併する危険性がある。そのほか臨床検査基準値を見ると、成人と比べて血清たんぱく、アルブミンが低く低栄養状態を表し、また白血球も低いことから免疫力が落ちていることがわかる。老健施設における問題は、栄養管理と摂食・嚥下障害のある方のリスク管理だろう。栄養状態の悪くなった高齢者に対し、栄養管理上、エネルギー消費量と投与カロリーを決める方法として一番多く使われるのが「ハリスベネディクト公式」だ。しかし、これは日本の明治時代頃に欧米でつくられたものなので、日本人にはやや合わない面もある。実用上は、さらに活動係数やストレス係数を掛けて調整するが、簡易式では体重1 kg当たりに20〜25をかけることで投与カロリーを決めることも可能だ。最近の栄養管理では、「NST栄養サポートチーム)」を取り入れるところが多い。アメリカでダドリック医師が中心静脈栄養を考案した後、チーム医療の必要性からスタートしたこの方法は、感染防止を含め患者の管理を医師だけで行うのは難しいということが発想の原点である。全身のトータルケアは看護師が、栄養管理は管理栄養士が、薬剤は薬剤師が担当する。従って多職種が連携したチームができ上がった。また摂食・嚥下訓練、口腔ケア等で歯科医師・歯科衛生士・STが、リハビリではPT・OT等々が参加し、さらに多職種へと広がっている。さて、栄養管理では、リンパ球数が1,200/μL以上でBMIが標準の22から10%程度低いところをめざしている。標準体重より低めにしているのは、投与カロリーが筋肉増強に行かず、脂肪、特に内臓脂肪蓄積の予防を考えてのことである。ただし、大事なのはこうした方法の厳守ではなく、栄養管理に着目し重要視することだと思っている。
■最近の栄養管理のキーワードはサルコペニア
摂食・嚥下障害における問題は、「誤嚥性肺炎」、「脱水、低栄養」、「食べる楽しみの喪失」だ。特に、口から食べられないことが一番の問題だと思う。こうした管理を行う場合、歯科医師や歯科衛生士の協力が必要であるし、STなどにも参加してもらってチーム医療としてあたるのがよい。さて、誤嚥性肺炎の患者の50%はむせるなどの症状を呈さないとされ、経験豊富なスタッフでも、ベッドサイドの診察だけでは約40%の誤嚥を見落とすといわれている。老人性肺炎を起こした患者の70%が不顕性肺炎であったという調査もある。こうしたことから、高齢者の場合、肺炎を起こした患者の多くは不顕性肺炎が多く注意が必要だ。また、誤嚥性肺炎の菌と口腔内の菌は同じといわれている。つまり、口のなかの菌が肺に入って肺炎を起こしていると考えられる。歯垢(デンタルプラーク)1 gに100億〜1,000億の菌がいるので、口腔ケアは重要だ。こんな調査がある。全国11か所の特養に入所する366名を対象に、2 年間にわたって週に1 回、歯科医師もしくは歯科衛生士による専門的な口腔清掃を行ったグループとそうでないグループを比較した。すると、口腔清掃を行ったグループでは「7 日以上の発熱」が15%、「肺炎」が11%、「死亡」が7 %の方に起こったのに対し、そうでないグループは、それぞれ29%、19%、16%と高い率で発生した。口腔ケアの重要性が示された調査結果といえよう。高齢者に対する最近の栄養管理では、前述した「サルコペニア」がキーワードだ。サルコペニアになると基礎代謝量が減少し、摂食量が減る。すると、あまり動かなくなってまた摂食が減り、たんぱく質合成量が低下して、さらにサルコペニアが進むという悪循環を起こす。これをどこかで断ち切らなければいけない。
■栄養管理の目的は口から食べてもらうこと
栄養摂取の基本はなるべく口から食べてもらうこと。それができない場合には、静脈栄養や経腸栄養があり、後者の投与ルートとしては経口・経鼻経管・胃ろうなどの方法がある。静脈栄養は施設では難しく、経鼻経管栄養は私の経験上からも大変な苦痛がある。患者の状態によってはチューブの抜去予防に抑制することもあるため、この方法はできるだけ避けるべきだ。胃ろうについては、単なる栄養補給ルートとしては使うべきではないと考える。目的として摂食・嚥下訓練であったり、終末期における緩和医療であるならばよいのではないか。こうしたことから考えると、施設では経腸栄養が望ましい。また、最近は半固形化の栄養剤にも注目が集まっている。液体経腸栄養剤と比較して合併症である下痢も改善し、胃食道逆流もすべてではないが予防でき、また短時間で栄養を摂取できるなどの利点があり、短時間投与によりリハビリ時間の獲得や体位変換による褥創予防につながる。水分の補給については、とろみをつけるとよいだろう。経口摂取への移行については、当センターでは交通事故後の若い入院患者が多いため、経口摂取の訓練をすると25%くらいの方が移行できる。また私は老健施設・療養病床でもNST活動をしているが、経験では10%くらいの方は経口摂取ができるようになり、食べる楽しみを取り戻すことができる。将来的には年齢・基礎疾患などで再び食べられなくなる可能性は高いが、トライする価値はある。われわれが栄養管理を行う目的は、やはり口から食べるようになってもらいたいからだ。多職種のチーム医療で、ぜひ、この目標に向かって取り組んでいただきたい。
(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載