認知症〜全老健研究事業の取組みと今後の展望〜レポート
(第4回老健医療研究会)
認知症〜全老健研究事業の取組みと今後の展望〜
中村 祐
香川大学医学部精神神経医学講座教授
■全老健の研究事業結果が介護報酬改定に反映された
本日は全老健の認知症に関する研究事業に外部専門家としてかかわる立場から、その関連のお話をさせていただく。
皆さんご存じのように、平成18年度の介護報酬改定で認知症短期集中リハビリテーション実施加算が新設され、続く平成21年度改定では、従前の60単位から4 倍の240単位へと大幅に評価が引き上げられ、通所リハビリでも算定できるようになった。老健施設の現場で働く皆さんの努力はなかなか報われることがないなかで、こうして介護報酬の加算として評価されたのは非常に喜ばしく思う。
ここに至るまでの経緯では、平成16年に高齢者リハビリテーション研究会がまとめた報告書で、脳卒中モデル・廃用症候群モデル・認知症モデルの3 つが高齢者リハビリのターゲットとされたことをきっかけに、全老健が認知症短期集中リハビリのモデル事業を始めたことが挙げられる。平成16年度・17年度は数か所の施設で試行的に行い、前述のように60単位の加算が新設された翌18年度からは、私を含めた外部機関の専門家と、オブザーバーとして厚労省担当課長補佐の参加も得て、同リハビリの効果に関する検証を深めた。そして平成18年度・19年度の研究結果で、認知症短集中リハビリが認知症に対して極めて有効であることを実証し、4 倍増となる240単位への報酬引き上げにつながった。
■認知症短期集中リハビリ終了後の維持期リハビリの有効性を研究
ところが、認知症短期集中リハビリの算定期間は3 か月が限度であるため、せっかくよくなってもそこでリハビリが途切れて、また悪くなることが課題となってきた。そこで平成21年度は、「認知症高齢者における維持期のリハビリテーションの効果的かつ適切な提供方法に関する研究事業」として、認知症短期集中リハビリ終了後に行う維持期リハビリの有効性に関する研究に取り組んだ。
具体的には、認知症短期集中リハビリを3 か月行った人に対して、学習訓練療法・現実見当識療法・記憶訓練療法のうちの1 つ以上と、回想法・音楽療法・言語コミュニケーション療法などを組み合わせた、1 対1 で行う維持期リハビリを継続する場合としない場合を比較した。
1年間にわたり24施設でデータをとった結果、維持期リハビリを行ったグループではほとんど活動性が変わらなかったのに対して、実施しなかったグループは若干悪化傾向がみられた。周辺症状に関してはDBD(認知症行動障害尺度)による評価で、実施群はさらに問題行動が減り、実施しなかった対象群は問題行動に変化がみられなかった。また問題行動のうち、特に介護拒否と暴言に効果が認められた。介護拒否に関しては、維持期リハビリを通じてコミュニケーションをとっていくことで、介護への拒否感が減じるのだと考えている。
維持期リハビリの内容では、学習訓練療法が最も多く、組み合わせで多かったのが回想法だった。この研究ではどの療法が何に効くのかを検証しているが、問題行動に対して一番効果を上げたのは学習訓練療法で、現実見当識療法やプラスアルファで行う言語コミュニケーション療法も効果を示した。サンプル数が少ないなかでの結果ではあるが、やはり学習訓練療法は認知症に対する基本的なリハビリの1 つだろうと思う。
現在は継続的な小集団リハビリの効果を調査研究
そして現在、認知症短期集中リハビリ終了後の認知症に対する継続的なリハビリの効果に関する調査研究を進めている。この場合、1 対1 の個別リハビリではさすがに人員や場所の確保に支障もあるため、リハビリ専門職1 名(各施設の判断により、補助的な役割の職員を配置してもよい)が、最大5 名までの小集団に対して行うリハビリの効果を検証している。
実施に際しては、必ずリハビリ専門職が中心に位置し、対象者が互いの顔を見て話ができるように、小型の丸テーブルなどを囲むようなポジショニングを求めている。また、目や耳が不自由な方に対しては、文字や声を大きくしたり、なるべく担当セラピストの近くに座ってもらったりする。集中力の持続が困難な方についても、セラピストの近くに席を置くとよい。この調査研究事業はこうした基本的な注意事項を徹底して行っている。
当該リハビリは集団で行うため、セッション時間は従来の個別リハビリの倍の40分とし、「開始時のコミュニケーション→コアプログラム→終了時のコミュニケーション」の流れで進めることを基本とする。コアプログラムは見当識訓練・学習訓練療法・作業療法・運動療法・回想法の5 つについて、状況に応じて単独または複数の組み合わせで実施する。開始時・終了時のコミュニケーション(挨拶)もプログラムの重要な構成要素であり、何となく口をきくといったことではなく、主体的な発話や集団を意識した相互交流の円滑化を図るため、その場の全員に話してもらうことが大切だ。
そして当該リハビリを実施する際のポイント、すなわち日付・場所、目的、活動、経過・反応等の項目をまとめた「認知症継続リハ実施のチェックシート」(表)を試作した。一度に5 名分の記録をつけるため、なるべく簡便な書式にしている。
この調査研究事業は、老健施設による認知症リハビリの新たな挑戦である。皆さんには、ここで行っているさまざまな工夫などを参考にして、ぜひ、現場での実践を深めていただきたい。
機関誌『老健』平成23年2月号掲載