「高齢者患者の診療のこつ」講演レポート 鳥羽研二 杏林大学医学部高齢医学教授、もの忘れセンター長
高齢者患者の診療のこつ
(第3回老健医療研究会 教育講演)
鳥羽研二 杏林大学医学部高齢医学教授、もの忘れセンター長
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第3回老健医療研究会
テーマは「老健に求められる医療」
日時 2009年7月22日(水) 12:25~17:00
会場 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター スノーホール
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診療の基本姿勢
物理的なことではなく、同じ目線で接する心構えが大切
高齢者診療のこつについて、特に脳血管障害にまつわる合併症やその対処などについてお話する。子は宝であるが、高齢者も既に実績を上げられた国の宝だと思う。機能が落ちているといっても、経験に裏打ちされた判断力、寛容さを備えていることを念頭に置く。言葉が遅い、記憶力が少々落ちているということだけで、その方の隠された大きな能力を過小評価してはいけない。
教科書には「いすの高さを調節して同じ目線で接する」とあるが、物理的なことではなく、むしろ心構えとして同じ目線で接することが大切だと思う。医療・介護環境で重要なのは、自立している点を見つけること。基本的な生活能力が少しずつ低下するが、できることを見つけてそれを伸ばすように継続して促すことが、どのような療養生活でも大切だ。
一方、家族は足りない部分を支えている。老健施設や在宅系において、その家族を支えることも大切だ。その上でお話を聞き、高齢者に何ができて何ができないかを見てほしい。
例えば、基本的なADL、すなわち栄養、清潔保持、薬をのむといった医療にかかわる基本的な機能を評価することで簡単にチェックできる。
初対面あるいは在宅を訪問したときに、医師や介護士に対して挨拶ができるか、積極的か、ということでも体調不良がわかることがある。
また、歩行は大変重要だ。歩行を見れば転倒の危険性がわかるという研究者もいる。脳血管障害で見られる“トコトコ歩き”や関節をかばうような歩き方、あるいは正常圧水頭症のように歩幅を広く取る歩き方、パーキンソン病の突進歩行など、特徴を持つ歩き方がある。
認知症の場合、家庭を訪問したときに医師から目をそらした場合には相当周辺症状が強く、しかもそれを本人に言うと、なお興奮する場合があるといったことを診察する必要がある。
また、訴えが少ないからといって、油断してはならない。高齢者の特徴として、無痛性の心筋梗塞、熱があまりない肺炎がある。さらに、排泄や肩こりなどの訴えが多くあるが、うつが増えているため、単に対症的に対処をしてはいけない。
一方、特に内科系の医師は排泄についてあまり聞かない傾向があるが、尿漏れなどについても聞かなければいけない。また、いびきや夜間の呼吸の停止についても周りの方から聞き取る必要がある。
整形外科的な疾患に関しても、関節部や背中などもよく診る必要がある。軽度の変形性膝関節症では、膝を曲げたときに音がしたり、膝に手を当てて屈伸させると手に振動が伝わってきたりして診断できる。憩室炎や尿路感染などは、押して痛いところを診る必要がある。
血圧に関しても、高齢者はストレス性の高血圧が増えてくるので、家のなかや、リラックスしたときの血圧を参考にすることが必要だ。
検査の基本
よいケアが発達したことで、初めて見つかる症状も
在宅においては、正常な高齢者でも薬を自分で飲めるのは9 割程度。完全に飲めないことをまず念頭に置く必要がある。
老健施設などでは、リハビリなどよいケアが発達したために、初めて見るような症状があることが注目されている。冠動脈疾患、狭心症、あるいは閉塞性動脈硬化症や肺気腫などは安静にしていると症状は出ないが、「運動しましょう」と身体を動かすと急に心不全の症状が出ることがある。もちろん通所リハビリが悪いということではない。運動したときに出る症状があることを知っていれば、運動に参加するのを嫌がったときにその方の心電図や胸の写真を撮る、あるいはサチュレーション(動脈酸素飽和度)を使って診るといったことで、隠れていた病気の診断に至ることがある。
血液検査は定期的にされると思うが、診察と合わせて行わなければいけない。例えば、脱水症がある方の血液総タンパクが正常でも、きちんと水を飲むと低タンパク血症かもしれない。これは貧血の方にもいえる。検査値のみによって正常、異常と判断するのではなく、その方の状態を診て、診察の結果と合わせて血液検査の結果解釈をしなければいけない。
胸の写真では胸郭の変形は見逃せない。例えば、肋骨の上のほうがすごく密になっているというだけで、骨粗鬆症、脊椎の圧迫骨折が診断できる。また、肺気腫のときの肺炎は、「スイスチーズ様」と表現するが、間質性肺炎のように影が見える。実際にCOPDや肺気腫による肺炎は重症のことが多い。このようなことを知っておくことが、高齢者の胸の写真を撮るときに必要となる。
認知症と並んで重要な症状はせん妄である。意識障害に加えて軽い興奮状態があることが、非常に重要なサインであることが多い。これは血糖値の異常、電解質異常、ナトリウムが高いか低い、カルシウムが高い、尿路感染症や肺炎、薬物中毒などの重大な病態が隠れていることがある。従って、意識がやや低下して興奮している場合には必ず臨時の検査や診察をし、気をつける必要がある。栄養のことについてはさまざまな評価シートがあるが、体重を目安にするのが一番簡単だ。とにかく体重を量ること。今は車椅子のまま量れる体重計もあるので、1 台はそろえていただきたい。3 か月で3 キロ以上の低下があれば、悪性疾患や慢性総合性疾患の発見の手がかりとなることがある。逆に、急に体重が増えた場合は、まず心不全を疑う必要がある。
認知症の鑑別診断
会話や観察によって鑑別できる認知症症状の特徴
中核医療機関と違い、老健施設に初めて入所された方は、認知症の鑑別診断を受けてない方もいる。そのときに、画像がなくてもある程度鑑別ができる。
まず挨拶だ。アルツハイマーの典型的な例は愛想がよく、脳血管性認知症とうつの場合は非常に律儀なところがある。前頭側頭葉型認知症の方はぶっきらぼうで、レビー小体型認知症の方はゆっくりとした印象がある。
「物忘れが気になりますか」との質問に、「本当に大変ですよ」と応えるのがうつで、「物忘れが気になります」と言うのが脳血管性認知症、「全然不便ではありません」と言うのがアルツハイマーで、「そんなことを何で聞くんだ」と言う方は前頭側頭葉型認知症と考えられる。見当識では、アルツハイマーでは通常、時間見当識が落ちる。前頭側頭葉型認知症では場所の見当識が保持されているのであまり迷子にならない。立体図形では、時計を描かせて異常なのはレビー小体型認知症とアルツハイマーということがわかっている。記憶力低下の割に認知度の高いのは抑うつの特徴だ。意欲の低下が初発症状のものは前頭側頭葉型認知症。抑うつはドーパミンと関係するレビー小体型認知症だ。
排尿は、アルツハイマーでは相当進むまで尿失禁はないが、前頭側頭葉型認知症や脳血管性認知症は割合と初期から排尿障害がある。幻覚は他の疾患にも現れるが、レビー小体型認知症では初期から現れることが有名だ。また、常同行動という、いつも同じ行為を繰り返すのは前頭側頭葉型認知症の特徴だ。
パーキンソニズムはレビー小体型疾患の診断基準に入っているが、脳血管性障害にもある。塩酸ドネペジルが最もよく効くのはレビー小体型で、次がアルツハイマー。パーキンソニズムや脳血管性認知症への効果は、報告によって2 〜 5 割とさまざまだ。
リハビリは、脳血管性認知症のうつに最もよく効き、アルツハイマーにもある程度効果があることがわかっている。
中核症状、周辺症状も疾患によって特徴がある
認知症の中核症状には、失行、失認、失語等がある。失行は、着衣失行といって非常に重度な場合はパンツが履けない、ズボンの1 つの穴に足を2 本通そうとするなどがあり、中度では服をそろえて着られない。しかし軽度の場合には、色バランスのよい服を着られないなどがあるが、見分けがつかない。
失認では顔貌失認が有名で、遠い親戚や友人がわからなくなることで判断できるが、最終的には配偶者や子どもの顔を区別できなくなる。失語は、軽度では場所や固有名詞が出てこない、「あれ」などの指示代名詞を使うなどがある。重度になると7 つ程度の言葉しか出なくなる。
中核症状でも軽いものと中等度、重度をある程度知っておけば、生活のなかで患者がどの程度の状態かわかる。
認知症の周辺症状も疾患によって特徴がある。アルツハイマーは記憶が低下し、同じ話を繰り返す、物をなくすという症状。脳血管性認知症は、前頭葉血流が低下し、表情の平板、閉じこもりなどが出る。軽度のうつは脳血管障害では必発だ。レビー小体型認知症は幻覚などがあるが、最近では、ドーパミンを介したうつも話題になっている。前頭側頭型認知症はさまざまな要素が入るが、共通点は意欲の低下、常同行動、感情の変化が挙げられる。笑っていたのに急に不機嫌になる、診察室に入ってきたと思うと出ていってしまう、3時になると毎日同じ行動をとるなどである。
中期から進行期になると周辺症状が違ってくる。アルツハイマーでは、物盗られ妄想、鏡に映った自分に話しかける「ミラー現象」などが見られる。脳血管性認知症では身体面の症状がはっきりしてくる。尿失禁、誤嚥、幻覚等も出てくる。レビー小体型認知症では、「知らない人が同居している」という言動や、「あなたは私の娘だけど娘じゃない」などのような分裂的な「カプグラ症候群」といったものがある。前頭側頭型認知症では、「脱抑制」といって手を動かしたり、過食といったものが出てくるようになる。このような症状が出れば認知症は鑑別しやすいが、軽度のうちから気をつけることが大事である。
脳血管障害
寝たきりになる危険度が5 倍高い脳卒中
脳卒中のことについてお話する。脳血管障害は、今でも老健施設や療養病床、さまざまな介護施設ではアルツハイマー以上に問題であると思う。
東京都リハビリテーション病院・(当時)による『高齢者の生活実態調査』では、重い脳血管障害、脳塞栓などで約3 分の1 、軽度の脳血管障害が12%で、合わせて寝たきりの要因の半分程度を占めるという。
京都大学東南アジア研究所の松林公蔵教授らによる『2002寝たきりプロセス報告書』では、寝たきりになる危険因子は脳卒中が5 倍で最も高い。次いで視覚・聴覚・会話・記憶などコミュニケーション障害のある方の2 倍程度。在宅においては多くの調査でそうだが、女性のほうが約2 倍高く、転倒も2 倍程度の危険因子がある。一方、1 日2 合までのお酒と、長寿運動教室などに参加することは危険度を半減させる効果がある。
コミュニケーション障害を評価、治療するには、医師以外に言語聴覚士などの他職種の連携が必要だ。転倒の評価は医師だけでもできるが、理学療法士や介護士の協力があるとわかりやすい。抑うつ傾向や長寿運動教室には、このような多職種の介入が効果的だと思われる。従って地域や施設でADLの依存、日常生活機能の低下を評価、介入するには医師だけでなく、多職種の協力がないとできない。
脳梗塞の3タイプの特徴
ADLが落ちた後は、時間経過とともにやっかいな症状や所見が多く現れ対処が大変になる。すなわち、長く背中を下にしていれば褥瘡になる。寝た状態では水が飲みにくいのでむせて誤嚥になる。使わないと筋肉は萎縮して関節が固くなる。体温も下がるので心拍出量が下がり、血圧も下がる。寝た状態が続くと便秘や排尿障害が出る。便秘になると横隔膜が上がって肺活量が落ちる。
長く入院して天井ばかり見ているので抑うつになり、認知機能も低下していく。
こうしたADL関連の症候群に関して、老健施設の医師が症状に応じて対応することで、初めて予防やよいケアができる。
脳梗塞を例にとってお話する。脳梗塞には、心原性脳塞栓、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞の3 つの大きなタイプがある。
長嶋茂雄元監督がかかられた心原性脳塞栓などは非常に広範囲な脳血管障害が起きるので、認知機能障害だけではなく、麻痺が永続性になる。アテローム血栓性脳梗塞は、首にある比較的太い動脈に血栓ができる。従って、場所によっては認知機能の低下や麻痺などの症状が出ることがある。最も見逃されやすいのは、脳の動脈から伸びる穿通枝せんつうしという1 本の細い動脈の先に小さな梗塞が起きることだ。ここはもともと太い動脈から細い動脈に分かれるので、一過性脳虚血発作が起きやすい。
ラクナ梗塞は、脳の深部の細い血管が詰まることで起こる。はっきりとした症状がないため、意外に見逃されることがある。
重い脳血管障害で寝たきりになりやすいのは脳塞栓だ。アテローム血栓性の場合には血栓が少しずつ大きくなって寝たきりになる。
脳血管障害を起こしたらどうすればよいか。軽い脳血管障害などで麻痺などがない場合、あるいは軽い麻痺が残っている場合でも、身体と心に変化があるということを知らなくてはいけない。脳血管性認知症のなかで、心原性脳塞栓は大きな症状が出るが、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞は軽い麻痺しか出ない。先の一過性脳虚血発作が起きやすい穿通枝では、ほとんど神経症状を起こさない。では脳の血流に変化がないかというと大間違いで、すべての脳梗塞に前頭葉血流の低下、軽いうつという共通の変化が生じる。
高次脳機能のおさらいをするが、血流が低下すると、前頭葉では感情の処理、情報処理が苦手になったり遅くなることがある。涙もろくなる、怒りやすい、集中力の低下、意欲の低下などが起きてくる。
頭頂葉立体覚では、道に迷う、時計が描けない、時計が読めなくなる。後頭葉視覚中枢はレビー小体型認知症で幻視が起こる。側頭葉言語中枢は、言葉が出ない、物の名前が出ないということがある。
個人差が非常に大きな白質病変
脳梗塞以外に、循環器障害である白質病変がある。白質病変は個人差が非常に大きく、30歳くらいから徐々に増え始めるが、75歳でも多い方と少ない方がいる。
白質病変の多い方は認知機能が低下しやすいが、記憶力の低下というより、言葉がスラスラ出ないなどの前頭葉機能に関係するような認知機能の低下が見られる。白質病変の数が増えた方は認知機能の低下が早いため、最近ではアルツハイマーでもこのような血管障害の影響が非常に重要視されている。同時に、日本ではアルツハイマーであっても、欧米人と違って白質病変が多いことが特徴とされる。白質病変にも注意してMRIを見ていただきたい。
白質病変の原因や治療はよくわかっていないが、以前からビンスワンガーという病気が知られていた。アルツハイマーと同じ頃にビンスワンガー博士が最初に発見した病気だ。日本でも、病理解剖で若いうちから尿失禁、歩行障害、意欲の低下などを起こす一群があり、白質病変が多いことが知られていた。
白質病変は、前頭葉の梗塞と同じく頭の中心部の循環障害だが、前頭葉の血流が低下して萎縮がある。つまり脳血管性の認知症と同じグループだ。
幻覚、めまい、整形外科的な疾患である歩行障害、泌尿器科的な尿失禁、消化器科にかかわる食欲低下、あるいは誤嚥性肺炎と関係がある嚥下障害、パーキンソン症状の振戦、筋固縮などが、ビンスワンガーだけでなく、白質病変の程度に関係があることが最近わかってきた。しかし現在は、動脈硬化が強いことと、血圧に関係があることしかわかっていない。従って収縮期高血圧を治すこと、早期に発見して動脈硬化の進展を予防することしかできない。
嚥下障害
80歳以上では、3 人に1人は嚥下障害
白質病変には誤嚥が最も関係していた。嚥下障害は75歳以上から急激に増える。老健施設のように80歳以上の方が多いところでは、特に病気はなくても約3 人に1 人は嚥下障害があることを前提にしていただきたい。
さまざまな認知症で、嚥下障害がどの時期に現れるかを考えてみる。アルツハイマーは本当の末期になって、言葉が7 つ程度しか出なくなるまで嚥下障害は出ない。アルツハイマーと診断された方に嚥下障害があれば、白質病変も合併していると考えたほうが自然かもしれない。
それに比べ、脳血管障害は初期から排尿障害、また中期には誤嚥性肺炎が出る。また、大きな脳血管病変では初期から誤嚥が必発する。レビー小体型認知症あるいはパーキンソン病による認知症、広汎性発達障害では、初期から嚥下障害が必発する。正常圧水頭症では歩行障害が先行し、尿失禁は後から出る。
ただ、どのような認知症でも進行期に廃用症候群でADLが落ちれば、体位によって二次的に誤嚥性肺炎が起きてしまう。従って初期の、寝たきりになる前から誤嚥があるかないかによって診断を変える必要がある。嚥下障害には、球麻痺によるものと仮性球麻痺によるものの2 つがある。球麻痺は延髄の嚥下中枢に直接ダメージを与える。
本当に延髄が障害されてしまうと食べ物を飲み込むことができず、胃ろうにならざるを得ない。しかしそれよりも軽い仮性球麻痺でも、延髄の嚥下中枢に障害が起きる。
嚥下障害は脳の病気まず脳の治療を
仮性球麻痺は、球麻痺より上位の脳神経ニューロンの障害によって起きる上位の障害で、皮質で最も多く起こる。次に皮質の下で起きる皮質下型。そして内包型、内包梗塞、脳幹型と続く。どのような病気が特徴かというと、皮質型にはアルツハイマーがあり、内包型にはラクナ梗塞がある。脳幹型にはパーキンソニズムがあり、延髄の嚥下障害にはワレンベルグ症候群がある。片側だけの嚥下障害で、頭を傾けると飲み込めることで知られる。
嚥下障害にはドーパミンが重要だ。ドーパミンは、サブスタンスP という嚥下反射と咳反射を同時に司る物質の合成を促進する働きがあるため、ドーパミンを補充してあげると、脳神経性の誤嚥、嚥下反射、あるいは誤嚥性肺炎の予防になる。
摂食・嚥下リハビリチームにも誤嚥性肺炎の原因が食事と誤解している方が多い。誤嚥性肺炎の原因は胃・食道逆流によるものと、嚥下による誤嚥の2 つの要素がある。胃・食道逆流は別として、誤嚥は脳の病気で食べ物とは無関係。まず脳の治療をすること。脳に目を向けないと誤嚥性肺炎は防げない。
嚥下性肺疾患研究会によると、誤嚥性肺炎は院内肺炎の9 割、市中肺炎では6 割を占めるという。
高齢者の施設で老人医療を行うならば、誤嚥性肺炎を十分知らなければいけない。
誤嚥性肺炎は、少なくとも3 つの分類をしておく必要がある。まずメンデルソン症候群。これは胃液などを嘔吐した後、急速に呼吸困難に陥る成人性の呼吸困難症候群で、肺が真っ白になる。
次に、食べ物を誤嚥したときに起きる誤嚥性肺炎。そして、睡眠中の知らぬ間に誤嚥して微熱が出る不顕性誤嚥だ。胸の写真ではわからず、CTで発見されることがあるが、実はこれが最も多い。
夜間知らない間に誤嚥しているため、食事を工夫しても防げない。食べ物と関係ないものが実は一番多いのだ。睡眠時のポジションなどに注意しないといけない。
肺葉以外の誤嚥では急性呼吸窮迫症候群があるが、これはステロイドや場合によっては酸素療法などが必要になる症例だ。
誤嚥性肺炎の防止法非薬物療法もさまざま
肺炎で、いわゆるアルツハイマーの場合にはどうしたらよいのか。例えば、白質病変で血液の循環が悪いラクナ梗塞によって、内包型あるいは皮質下型の循環障害のためにドーパミンが不足しているなどの場合、循環をよくすると肺炎がよくなる可能性がある。東北大学の医師らが抗血小板薬のシロスタゾールを投与したところ、肺炎が2 割減少した。これは、先の仮性球麻痺に対する一つの解答である。
薬についての注意点がある。高血圧でカルシウム拮抗剤を使っている方はぜひやめていただきたい。カルシウム拮抗剤は食道の平滑筋へ影響し、逆流性食道炎に悪く、むしろ誤嚥のほうに働く。
もし高血圧の薬を使うならば、誤嚥のある方にはACE阻害剤を使うとよい。サブスタンスPを増やすため、誤嚥性肺炎の発症率を下げるといわれている。
アマンタジンもドーパミンの放出を促すので2割くらいで使われている。特にレビー小体型認知症、脳血管性認知症の誤嚥に大変有効だ。
その他、最近ではトウガラシアロマパッチが販売されている。患者に貼るとトウガラシの香りがする。咳は出ないが咳反射は強まるので、夜に誤嚥した際、咳反射で喀痰が出やすくなって誤嚥性肺炎を防ぐ。これも2 〜 3 割使われている例がある。
薬を使わずに誤嚥性肺炎を防ぐ方法もある。第一にベッド挙上。手術で胃を切った方の誤嚥性肺炎には、食事を工夫しても効果はない。夜寝るときにベッドを20度上げれば解決する。
第二に、歯みがきを毎日3 度させること。誤嚥しても口腔内の細菌が少なければ大事に至らない。
健康な私たちも誤嚥するが肺炎にならないのは、口腔内の細菌叢を改善しているからだ。
嚥下リハビリについては、食べる、声を出す、会話を励行する、音読すること。口のなかの神経は舌咽神経だけではなく、脳神経も半分以上つながっているので、これらすべてが嚥下の改善につながる。実際に、舌をいっぱいに出して左右に1〜 2 分動かすだけの舌出しリハビリを行って誤嚥が減った。
コショウの入った食事などもよい。脱水を治すことも大切だ。気管支線毛(きかんしせんもう)という小さなほうき状のものが痰などを外まで運ぶ役割をするが、脱水状態では動きが悪くなる。気管支のほうきをしっかり動かすためには、脱水を改善する必要がある。
また、睡眠時や麻酔下ではみんな誤嚥する。従って、過度の鎮静剤や睡眠薬の使用には注意する。日中、座位でいるなどできることは多い。
栄養と意欲
栄養状態の改善で肺炎の防止
次に栄養についてだが、肺炎を重症化させないためには栄養をよくすることが重要だ。特に、認知症や嚥下障害では体重減少を起こすが、危険性誤嚥によって慢性の炎症が起きて低栄養になっていないか疑うことが大切だ。
私たちは、介護施設あるいは介護療養型医療施設で要介護度4 や5 の低栄養の方を多く見ている。
低栄養の方は、栄養をよくしない限り肺炎を繰り返す。
栄養の悪い方のいる割合が施設によってどの程度差があるかを調べたところ、平均のアルブミン値が4.1という非常によい老健施設がある一方、東京都内の某有料老人ホームでは3.4というところもあった。施設によって栄養状態の差は大きい。栄養を工夫すればよい効果があるようだ。
脳の活性化についてお話する。日常生活動作に関する5 項目について、意欲を10点満点の指標で測定した。9 〜10点満点の方は1 年半で1 割くらいしか亡くならないが、点数が下がるにつれて死亡率が高くなり、2 点以下だと半年程度で亡くなってしまう。
意欲を出してあげれば状態がよくなるのではないかという発想に結びつく。挨拶だけでもよい。
朝、挨拶をしてくれる方は言葉が出にくくても大丈夫だが、こちらが挨拶をしてもぐったりしているような方は、どこが悪いか診ないといけない。前頭葉血流が低下していると、意欲が落ちてくる傾向がある。
学問的なことを言うと、器械を使って測定したところ、意欲は前頭葉の眼窩回(がんかかい)の血流量と一番関係があった。ここは記憶にかかわるところだ。うつや脳血管障害の方は、意欲が低下すると同時に眼窩回の循環が低下し、記憶力が低下して最終的には海馬が萎縮するメカニズムがあると思われる。
回想・音楽・運動療法
前頭葉の血流の改善が症状の改善につながる
回想法は懐かしい道具などを使って昔のことを思い出す方法で、元気が本当に出ることがある。
例えば、海馬や頭頂葉が萎縮し、白質病変も多い日本のアルツハイマーの典型例のような方に回想法を行うと、前頭葉の血流の低下が改善したり、一部、眼窩回の血流低下も改善したりする。
実際には、記憶力がよくなるだけでなく、意欲も6 〜 8 点から9 点に上がり、うつも軽快した。
血流の変化は心理検査にも反映された。回想法などの方法はおまじないではなく、脳のなかできちんとした改善が起きているのだ。
音楽療法は心を穏やかにする効果があるというが、日本では楽器を演奏するので活動療法でもある。先日、もの忘れセンターの音楽療法士が楽器を使ってみんなと一緒に歌を歌っていた。すると参加者が歌について自然と話し合って回想法と組み合わせていた。以前から大変進歩していたのでとても驚いた。
光トポグラフィーという、頭に電極をつけて脳の血の巡りを観察する方法があるが、いわゆる学習療法などでは前頭葉の中心部の血流が増えている。先ほどお話した、意欲に関係する眼窩回の血流量も増えてくる。楽しんで作業をするということは、集中力だけではなく、「やるんだ」という意欲に関係する部分の血流も増えてくることがわかる。
嫌なことでは反応性が増えないので、リハビリや非薬物療法も、楽しめるものを選んで継続的にやるということが大切である。
均整・柔軟体操の運動療法をしてもらったところ、高齢になればなるほど運動をする方はもの忘れの度合いが低かった。65歳から急速に増加するうつも抑えられるようだ。記憶力と前頭葉症状、両方に効果があるのが運動のいい点だ。2 日に1度、1 回30分〜1 時間程度行うのがよい。
認知症短期集中リハビリテーションのことはご存じと思うが、このようなさまざまな方法を組み合わせると、意欲を向上させることにも効果があった。
落ちやすいADL
残された機能を維持するための医師とコメディカルの役割
最後に、老健施設などでどのようなADLが落ちやすいかについてお話する。セルフケアでは入浴の機能が最も落ちやすい。つまり、風呂が嫌いになる。階段昇降も落ちやすく、座位保持は最も落ちにくい。食事は最後に落ちる。
2 年間の研究の結果、もともと落ちている入浴、更衣、整容、階段昇降等の能力は介助するので落ちなかった。逆にトイレは割合と軽視されていて、油断するとすぐにおむつになってしまうので注意する。一方、症状が軽く自立した方にあまり目配りをしないと、油断して落ちることがあるので注意したい。
『日老医誌』に掲載された並河正晃先生の調査がある。健常な30代の男性を集めた排尿の実験で、仰向けだと8 割が排尿に長い時間がかかり、9 割に残尿感があった。実際に8 割に残尿があって、1割に排尿痛があった。高齢者が仰向けになったまま尿瓶で尿を取ろうとしても、そんなことはできない。
並河先生に触発されて伏臥位にして腹圧をかけさせる「うつぶせ療法」を行ってみた。寝たきりの場合でも3 か月続けると意欲が1 点上がった。
車椅子に乗せて伏臥位にして腹圧をかけるだけでもよい。意欲が上がり、便秘も治る。
排尿は、トイレに連れていってあげると、おむつのままに比べて1 週間くらいで排尿意欲が上がる。それに応じて生活機能が上がり、2 年後には、亡くなった方を除いて約半分の方がトイレに行けるようになった。排尿に無関心の方は早く亡くなる。トイレの機能は人間にとって根元的なものだ。
高齢者入所者とどうつき合うか。失われた機能をともに嘆いてはいけない。失われた機能の回復に手を貸し、意欲や排尿、歩行、その他の残った機能を低下させずに生かす。そのための非薬物療法をコメディカルと共有し、そして医学的な知識に基づいた薬物療法を活用する。何より生活の不便さといったものを医療的に「解釈」して相談できる医師、そしてスタッフを育てることを先生方にお願いしたい。
(第3回老健医療研究会)