シンポジウム「介護老人保健施設と地域医療連携」レポート
シンポジウム「介護老人保健施設と地域医療連携」レポート
日時 2009年7月22日(水) 12:25~17:00
会場 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター スノーホール
座 長 江澤和彦社団法人全国老人保健施設協会学術委員長
シンポジスト 小崎 武老人保健施設星ヶ丘アメニティクラブ・医師
天本 宏 あい介護老人保健施設理事長
稲川利光 NTT東日本関東病院リハビリテーション科部長
髙椋 清 社団法人全国老人保健施設協会副会長
第3 回老健医療研究会では、シンポジウム「介護老人保健施設と地域医療連携」が行われた。江澤和彦全国老人保健施設協会学術委員長が座長を務め、小崎武(老人保健施設星ヶ丘アメニティクラブ・医師)、天本宏(あい介護老人保健施設理事長)、稲川利光(NTT東日本関東病院リハビリテーション科部長)、清(全国老人保健施設協会副会長)―の4 氏がシンポジストとして発表した。
このなかで老健施設の医療機能と地域医療連携とのかかわり方、老健施設の将来ビジョンのあり方など幅広い観点からの論議が行われた。
介護老人保健施設と地域医療連携
小崎 武氏
老健施設に勤務する医師として何をすべきかについて考える。老健施設の医師は、病診連携の「診」、すなわち診療所の医師に近い役割を担って病診連携システムに参加するべきと考えている。
そのためには、老健施設の医療を適切に担うことが大切である。すなわち、多くの基礎疾患を持った障害高齢者、認知症高齢者の尊厳を守り、利用者に安全かつ安心して入所生活を送ってもらい、満足していただけるような医学的管理を行うことである。
当施設は医療の面では、各入所者のプロフィールを正確かつ簡潔につくることを実施している。
施設のスタッフ全員が情報を共有しながら介護サービスを提供できるように、カルテの記録はだれでも読めるように日本語でわかりやすい楷書で書き、施設内で必要な情報が速やかに入手できるようなシステムにしている。
また、検査で異常値を示した利用者には検査結果一覧表を作成し、検査値の定期的推移が一目でわかるように整理し活用している。臨床の場では、この一覧表を利用者の健康状態やADLが変化したとき、治療経過等について、インフォームド・コンセントの精神に基づいて利用者・家族に説明するときにも使用している。また、高齢者のサクセスフルライフを支援する心のケアにも配慮している。
ひと昔前の医療では、基本的に医療機関完結型が前提であった。しかし、現代社会の多くの疾病の治療や介護には長期計画の視点が欠かせない。
1 人の患者に対して、時間の流れに沿って多数のサービス提供者が連携する地域ごとの完結性が求められる。
脳血管疾患等では、急性期から維持期まで一貫したリハビリ医療を効率的かつ効果的に提供するためのツールである連携パスに基づき、急性期、回復期病院と老健施設がそれぞれ役割を分担し、共通の治療目標に向かって情報を共有し、治療に参加することにしている。
具体的な取り組みとしては、当施設の地域医療連携の窓口は、通常の入所の場合は支援相談員が担当し、病態が急変して医療機関を緊急に受診する場合は施設の医師が担当することにしている。
また、通常、医療機関で行っている連携パスに相当する、利用者のADL向上に役立つような質の高い情報の提供に努めている。そして医療情報やインフォームド・コンセントの内容などを共有できるようにしている。その結果として、治療方針、再入院の必要性の有無、再入院となる状態について共通の認識を持つことに役立っている。
なかでも、医療情報は医療機関と施設の医師間で、看護・介護の情報は医療機関と施設の看護師間で、またリハビリの情報は医療機関と施設のリハビリ職間で取り交わすことができるようにして、日常の医療、看護・介護に役立てている。
次に、地元の名古屋市医師会の取り組みとしては、病診連携システムが1985年から構築され、会員間で有効に機能している。このシステムを維持・発展させるために、地域医療支援病院と登録医がシステム発足時の理念に基づいて、その運営に参加している。老健施設の医師も病診連携システムに参加する登録医となる。
私は5 つの地域医療支援病院の登録医となり、その責任を果たすべく日々の診療活動を行っているが、このことによって施設と地域医療連携は良好に保たれていると考えている。
現在の地域医療連携の実態について、第23回保団連医療研究集会で報告された病診連携についてのアンケート調査結果を紹介する。「連携している病院が3 か所以上ある」と答えたものが65.1%。病院への紹介ケースは、「検査」、「診断」、「高度先端医療」が87.7%、「専門外の疾患」が61.8%、「入院依頼」が54.3%。入院する病院の確保について、「入院先を見つけることが難しい」という回答が35.3%、「病院との間にコンタクトがない」が24.7%という結果で、病診連携が希薄であることがわかる。今後、病診間の連携を密にしてお互いに顔の見える信頼関係の構築が必要と考える。
最近話題になっている救急患者の受け入れに関しては、「連携している病院の閉鎖・規模縮小」が37.3%という結果が出ている。これは全国共通のことと考えられる。救急搬送システム機能については、過半数が受け入れ困難な状況にあり、新聞・テレビ等の報道からもわかるとおり日本各地で問題が起きていることであり、救急患者の搬送、受け入れ体制の整備は焦眉の急と考える。
将来ビジョンにおける介護老人保健施設の使命(地域医療について)
天本 宏氏
高齢化が進むとともに要介護度は高くなり、多様なニーズがあるなかで、トータルケア、生活支援、介護、医療、住まい等に対するサービスを、介護保険制度の一施設で完結するのは限界が来ている。そこで将来ビジョンというものを明確に持つべきであろう。
現在、在宅ケアと施設ケアがあるが、在宅ケアにおいては、介護・医療サービスが必要なときに必要なだけ提供できる仕組みとなっている。しかし、施設ケアにおいては利用者本位という介護保険の基本理念ではなく、福祉施設ならば福祉ケア偏重といった施設の“箱”に合わせ、個別ケアではなく集団ケアという対応にならざるを得ない。これは制度上の大きな欠陥である。
また、医療給付にも制限がある。医療給付は要介護度による支給限度額で制限され、医療必要度がほとんど加味されていない。医療保険は現物給付で、必要なものを必要なだけ提供できると法律で保障され、入所者は後期高齢者医療保険料を払っているにもかかわらず、老健施設に入所していると医療保険の現物給付が制限されている。
さらに、本来なら老健施設は通過施設であるが、受け皿の住宅がないためにショートステイの稼働率がせいぜい2 ~ 3 割になっていて、ほとんどが入所という“住まい”になっている。本来の姿をもう一度見直すべきで、それには住宅整備が国の施策としてなされなければいけない。
さらにもう一つの問題は、低所得者対策の補足給付である。住まい、食費という生活保護費を介護保険料で支払う補足給付は、年間3,000億円に上っている。これは保険料の目的外使用だ。介護保険料の引き上げの前にまず給付の見直しをすべきだ。
病院型の介護療養型医療施設という箱があり、一方で特養のような医療提供が少ない生活支援の箱がある。同じ状態の人が前者に入ったら医療中心、後者に入ったら生活支援になるというのはおかしい。
医療療養病床に入ると医療必要度を測り、医療区分1 になるとデイケアより安い764点だ。ここに入る人は介護保険料も払っているにもかかわらず、医療区分の給付範囲しか給付されていない。
しかも、その受け皿が整備されていないところで追い出そうとしているのだ。
介護施設の将来的な方向性を考えたとき、一つは多様な住宅化、特定施設化といった方向を、もう一つは転換型老健施設に近い形の、幅広いニーズに対応できるようなものをわれわれは提示すべきであろう。
現状では、3 施設のなかで老健施設の利用者は平均要介護度が一番軽い。しかし、将来の老健施設の利用者は重度化していく。このため老健施設は自己完結型ではなく、地域内完結型といった形で地域医療との連携をしなければいけない。つまり、老健施設も変わらなければならないし、地域医療も変わっていかなければいけない。
さらにもう一つ大事なことは、地域の社会資源のなかで考える地域包括ケアだ。制度も変わらなければならないが、自分たちのポジショニングをどこに位置づけていくかが重要だ。
あるべき姿は、まず利用者を中心に考えることだ。だれでも、いつでも、どこでも、生活、介護、医療、トータルケアサービス、個別のニーズへの対応をしていく新たな地域包括施設の構築である。
これを一体的にサービス提供するには、制度設計を横断的に行う必要がある。
今後も、昭和23年に決められた医師法、保助看法の業務独占の権限を委譲し、分業ではなく協業で進める必要がある。そのためには、介護スタッフにも医療行為をやっていただかなければならないし、そのための教育を法律的に保証していくことが必要だ。
また、相互関連・補完性を高めた医療保険と介護保険が必要で、介護施設では急性増悪の際には医療保険で対応できるように、ケアマネジャーがケアプランをもう一度見直していくべきだ。そのことは現場から情報発信しなければならない。
制度というのは後追いだ。すでに起きている制度矛盾を現場からあるべき姿に向けて変えていかなければならない。そのためには当然、サービス構造に応じた給付体系を議論していくべきだ。
救急医療が増え、なかでも高齢者の救急患者が増えている。その原因は、軽症者が増え、一次医療が9 時から5 時までしか診ないところが増えているからだ。老健施設が病院へ患者を送るとき、受け入れてくれる病院がなく、厳しくなっているのではないか。
認知症の方の肺炎であれば、確かに精神症状は増悪するが、それを三次救急に回すのではなく、むしろその分野を得意とする療養病床へ回すべきではないか。地域支援病棟といったような、高齢者をもっと受け入れられるような機関も必要だ。
老健施設内においても、一次予防、二次予防、三次予防を行って障害を重度化させないような発症を予防するメンテナンスは、医師だけではなく、看護師、介護職などみんなが協力してやっていかなければいけない。
看取りについては、医療に制限があっても、ショートステイを繰り返し使った利用者から、「生活環境を重視してくれる、この施設で看取ってほしい」というニーズは高まりつつある。そうしたニーズに対して、外部サービスを活用しながら看取りをすることはできると思う。
在宅療養拠点のなかでは、急性期よりも亜急性期の地域支援病棟的なものが必要だ。回復期リハビリでも、老健施設で骨折して入院したとしても、その後、老健施設に帰る際、制度上在宅復帰になっていない。
すでに介護への対応は地域全体で動いている。
老健施設が地域当直医に入るというような地域の連携をどうするか。今後は、こうした課題を考えていただきたい。
急性期病院からの介護老人保健施設への期待
稲川利光氏
私は急性期の病院に勤めている。リハビリはよく川の流れにたとえられる。急性期からちょろちょろ水が流れ、それがだんだん大きくなって回復期で山を下っていく。そして平地を経て在宅という河口につながり、生活補助という膨大な海がある。回復期の流れで水のよどみをつくってしまうと後々患者の生活が変わってしまう。
私はかつて在宅や回復期にいて、今は急性期の病院、つまり湧き水のところでリハビリをすれば自分の勉強になると思って仕事をするようになった。
急性期の病院で気づいたのは、湧き水が頂上ではないということだ。患者たちは生活という舞台の上で、ずっと同じレベルで生活を演じていかなければいけない。私たちはそれを援助する立場だ。急性期から回復期、そして維持期がある。しかし、流れはそれだけでは終わらない。急性期から回復期を経て在宅に戻った患者は、そこで具合が悪くなったりADLが落ちたりして、急性期、回復期に戻ることがある。また、在宅だった方が施設に行き、施設で転倒して骨折した方が在宅に帰ることもある。その手伝いの役割を私たちが果たすことになる。こういう循環のなかで患者を見ている。
在宅にいても合併症の予防、廃用予防は大事であるし、急性期にいてもこうしたことには早くからかかわるべきだ。どの職種の立場であっても、シームレスにかかわる必要があると思う。
実は患者は、地域のなかを循環している。「リハビリの流れ」というが、これは「流れ」ではなく、「リハビリの輪」だと思う。急性期においても、回復期においても、在宅においても、みんなが同じような仕事をしてかかわっているという思いを抱く必要があるのではないか。
老健施設は今後、地域を支える立場として非常に重要な使命を担っていくと思う。予防から終末期、廃用症候群をどう予防していくか。リハビリのあり方、だれでもどこでもできる方法論を考えていかなければならない。
また、身体がだんだん衰えていくのは自然の現象であるが、それでも元気な人はいっぱいいる。何が元気かというと、心が元気なのだ。心を元気にさせるには、私たちが元気でないといけない。そういった相互作用もある。
そして、私たちがなぜこの人にかかわるのだろうか、なぜこの仕事をするのだろうかという、「なぜ」を考えることが大事だ。
急性期や回復期の病院であっても、特養であっても、老健施設であっても、働く人の思いはみんな同じはずだ。それをどう共有するかが大事だ。
老健施設、地域、個人それぞれに思いがある。その思いを大切にしていける地域は、頑張っていけるのではないかと思っている。
「自分がいることを周りはちゃんと知ってくれている。そんなところに自分は住んでいるのだ…」という思い。それは、そこに住む人にとっての何よりもの元気ぐすりではないか。そんな思いを共有できる関わりを持ちたいものである。
老健施設を取り巻く社会保障制度の課題
髙椋 清
老健施設には、急性期の方、亜急性・回復期の方、長期の医療療養の方、そして“居住”のような方もおられる。
何が大事かというと、「何のために」という利用目的を確認することだ。「何のためにあなたはこの老健施設を利用しておられるのですか」、「あなたは入所希望で来られましたけれども、何のために来られたのですか」と聞くことが大事だ。
患者が病院に入院する場合、肺炎の治療、がんや骨折の手術などと、利用目的によって投入される「医療資源」が明確だ。老健施設の利用者に不足している要素は、「利用目的」という情報である。
同時に制度として不足している観点があると思う。例えば、要介護3 のAさんとBさんがおられ、Aさんは自宅に復帰したいと希望し、Bさんは特養ホームに入所したいと希望しているとする。どちらの希望をかなえるのが大変か。間違いなくAさんだ。在宅復帰しても生活に支障がないように家を改築したり、その後のリハビリなどがうまくいくよう、ケアマネジャーを含めてコントロールしなければいけない。
さらに、現在は要介護度で利用者を区分しているが、老健施設の利用者は変化している。例えば、熱が出た途端に寝たきりになり、要介護3 の方が5 になる。治るとそれが3 に復活する。要介護度という「手のかかり度」で区分されているため、利用者の疾病や治療の特性、医療必要度についてはほとんど考慮されていない。これは制度上の問題点だ。
リハビリでは、認知症短期集中リハビリと身体の短期集中リハビリの両方の介護報酬が大幅に引き上げられ、一定以上利用者の特性に応じたリハビリの実施が可能になった。日常的な医療に対しては、緊急時治療管理料やターミナルケア加算で、少し医療的な範囲が広がった。
そもそも介護報酬で取り入れられている医療費は「平均」という考え方はおかしい。「外れ値」という言い方があるが、75%は対応可能でも、残りの25%の外れ値の対応には何らかの方法で費用を保証しなければいけない。そうでなければ、利用者に対する適切な医療資源の配分が行われているとは言い難い。
例えば肺炎を起こしたら、適切な資源配分をその方に対して実施しなければいけない。これはリソースアロケーション(resource allocation)で、利用者の個別特性に応じた医療・介護資源の適正配分だ。われわれはそこに未来をつくっていかなければいけない。
医療の必要性に応じてリソースを適正に配分するための指標としては、「手のかかり度」だけでは無理だ。国際生活機能分類(ICFの臓器機能、生活活動像)と「手のかかり度」の両方が必要かもしれない。リハビリに関しても必要度というものを構築する必要がある。
医療保険から介護保険利用への移行期、つなぎ目が「制度の連続性」として「シームレス(seamless)」である必要がある。制度の連続性は今は十分ではない。医療保険と介護保険の保険事故はまったく別のもののため、認定に1 か月近く時間がかかってしまい、「何をやってるんだ、早くリハビリしたいのに」という利用者の声が出てくる。
従って、より精緻で簡便な「利用者特性」を捉える仕組みが必要である。そして施設給付は、「利用者の個別特性別給付」プラス「施設機能加算」となるのが望ましい。
現在の要介護認定の仕組みは、生活機能の判定に関して手間がかかり過ぎて説明力が低く、再現性が乏しい。
医療では平均在院日数が短くなり、医療ニーズのある方も老健施設の入所を希望する。法人内では併設の老健施設により早く転入所という傾向が出てくる。老健施設が受け皿となり、在宅復帰を果たす。さらに、老健施設からもとの家ではなくて、老人ホームや特養など新しい在宅を選択する場合もあるが、これが不足している。また本人に廃用症候群や変調が生じたときには老健施設が受け入れる。ここの制度は整備されている。
また、トレーサブル(traceable:利用者の変化が容易に適確に捉えられること)が重要だ。医療保険における典型はアメリカのDRG/PPSだが、医療区分もその一つで、急性期の包括であるDPCも同じだ。
介護保険の場合、コスト・コンテント(cost content)、クオリティ・アシュアランス(quality assurance)、そしてケアミックスがある。この典型はMDS(RUG/RAPs)で、要介護認定も同様だ。
では、仮に老健施設の入所者の方が急性の肺炎というDPCコーディングがつき、副病名で糖尿病がついたとしたら、利用目的、医療必要度、生活状態像はどうなるだろうか。
さらに、急性期から主疾患コードで脳梗塞、かつ糖尿病だったときに、その方の利用目的はどうなるのか、その時点での医療必要度はどの段階なのか、そして生活状態像としてはどういうことなのか、これをきれいに1 行の数字で表現する必要がある。
こうしたことを整備することが、次の老健施設が向かう方向性であると考えている。