第4回老健医療研究会 報告

第4回社団法人全国老人保健施設協会医療研究会
(第4回老健医療研究会)が開催されました。

日 時 2010年11月10日(水)  12:55 〜17:00
会 場 ホテルグランヴィア岡山 3階「クリスタル」


以下に、各講演の記録を掲載(機関誌『老健』平成23年2月号より転載)します。


全国大会・老健医療研究会 合同プログラム「指定演題発表」
指定演題①「高齢者の終末期ケア」
 平川仁尚氏(名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター特任助教)
指定演題②「認知症」
 玉井顯氏(敦賀温泉病院・介護老人保健施設ゆなみ理事長)
指定演題③「老健施設における医療行為」
 藪野信美氏(老人保健施設岡山リハビリテーションホーム管理者)
指定演題④「医療と在宅生活支援」
 佐藤龍司氏(介護老人保健施設しょうわ理事長)
指定演題⑤「介護老人保健施設のリハビリテーション」
 野尻晋一氏(介護老人保健施設清雅苑副施設長、熊本機能病院総合リハビリテーションセンター副部長)


認知症〜全老健研究事業の取組みと今後の展望〜
中村 祐
香川大学医学部精神神経医学講座教授


全国大会・老健医療研究会共催シンポジウム「老健施設の感染症対策」


高齢者の摂食嚥下と栄養管理
梶谷伸顕
独立行政法人自動車事故対策機構岡山療護センター外科、NSTくらしき作陽大学客員教授


リハビリテーション処方箋の書き方 オーダーのこつ
米満弘之介
護老人保健施設清雅苑理事長、全国地域リハビリテーション支援事業連絡協議会会長


高齢者の投薬コントロールについて―糖尿病事例を通して―

大庭建三
日本医科大学老年内科教授

認知症〜全老健研究事業の取組みと今後の展望〜レポート

(第4回老健医療研究会)
認知症〜全老健研究事業の取組みと今後の展望〜
中村 祐
香川大学医学部精神神経医学講座教授

■全老健の研究事業結果が介護報酬改定に反映された

 本日は全老健の認知症に関する研究事業に外部専門家としてかかわる立場から、その関連のお話をさせていただく。
 皆さんご存じのように、平成18年度の介護報酬改定で認知症短期集中リハビリテーション実施加算が新設され、続く平成21年度改定では、従前の60単位から4 倍の240単位へと大幅に評価が引き上げられ、通所リハビリでも算定できるようになった。老健施設の現場で働く皆さんの努力はなかなか報われることがないなかで、こうして介護報酬の加算として評価されたのは非常に喜ばしく思う。
 ここに至るまでの経緯では、平成16年に高齢者リハビリテーション研究会がまとめた報告書で、脳卒中モデル・廃用症候群モデル・認知症モデルの3 つが高齢者リハビリのターゲットとされたことをきっかけに、全老健が認知症短期集中リハビリのモデル事業を始めたことが挙げられる。平成16年度・17年度は数か所の施設で試行的に行い、前述のように60単位の加算が新設された翌18年度からは、私を含めた外部機関の専門家と、オブザーバーとして厚労省担当課長補佐の参加も得て、同リハビリの効果に関する検証を深めた。そして平成18年度・19年度の研究結果で、認知症短集中リハビリが認知症に対して極めて有効であることを実証し、4 倍増となる240単位への報酬引き上げにつながった。

■認知症短期集中リハビリ終了後の維持期リハビリの有効性を研究

 ところが、認知症短期集中リハビリの算定期間は3 か月が限度であるため、せっかくよくなってもそこでリハビリが途切れて、また悪くなることが課題となってきた。そこで平成21年度は、「認知症高齢者における維持期のリハビリテーションの効果的かつ適切な提供方法に関する研究事業」として、認知症短期集中リハビリ終了後に行う維持期リハビリの有効性に関する研究に取り組んだ。
 具体的には、認知症短期集中リハビリを3 か月行った人に対して、学習訓練療法・現実見当識療法・記憶訓練療法のうちの1 つ以上と、回想法・音楽療法・言語コミュニケーション療法などを組み合わせた、1 対1 で行う維持期リハビリを継続する場合としない場合を比較した。
 1年間にわたり24施設でデータをとった結果、維持期リハビリを行ったグループではほとんど活動性が変わらなかったのに対して、実施しなかったグループは若干悪化傾向がみられた。周辺症状に関してはDBD(認知症行動障害尺度)による評価で、実施群はさらに問題行動が減り、実施しなかった対象群は問題行動に変化がみられなかった。また問題行動のうち、特に介護拒否と暴言に効果が認められた。介護拒否に関しては、維持期リハビリを通じてコミュニケーションをとっていくことで、介護への拒否感が減じるのだと考えている。
 維持期リハビリの内容では、学習訓練療法が最も多く、組み合わせで多かったのが回想法だった。この研究ではどの療法が何に効くのかを検証しているが、問題行動に対して一番効果を上げたのは学習訓練療法で、現実見当識療法やプラスアルファで行う言語コミュニケーション療法も効果を示した。サンプル数が少ないなかでの結果ではあるが、やはり学習訓練療法は認知症に対する基本的なリハビリの1 つだろうと思う。

現在は継続的な小集団リハビリの効果を調査研究

 そして現在、認知症短期集中リハビリ終了後の認知症に対する継続的なリハビリの効果に関する調査研究を進めている。この場合、1 対1 の個別リハビリではさすがに人員や場所の確保に支障もあるため、リハビリ専門職1 名(各施設の判断により、補助的な役割の職員を配置してもよい)が、最大5 名までの小集団に対して行うリハビリの効果を検証している。
 実施に際しては、必ずリハビリ専門職が中心に位置し、対象者が互いの顔を見て話ができるように、小型の丸テーブルなどを囲むようなポジショニングを求めている。また、目や耳が不自由な方に対しては、文字や声を大きくしたり、なるべく担当セラピストの近くに座ってもらったりする。集中力の持続が困難な方についても、セラピストの近くに席を置くとよい。この調査研究事業はこうした基本的な注意事項を徹底して行っている。
 当該リハビリは集団で行うため、セッション時間は従来の個別リハビリの倍の40分とし、「開始時のコミュニケーション→コアプログラム→終了時のコミュニケーション」の流れで進めることを基本とする。コアプログラムは見当識訓練・学習訓練療法・作業療法・運動療法・回想法の5 つについて、状況に応じて単独または複数の組み合わせで実施する。開始時・終了時のコミュニケーション(挨拶)もプログラムの重要な構成要素であり、何となく口をきくといったことではなく、主体的な発話や集団を意識した相互交流の円滑化を図るため、その場の全員に話してもらうことが大切だ。
 そして当該リハビリを実施する際のポイント、すなわち日付・場所、目的、活動、経過・反応等の項目をまとめた「認知症継続リハ実施のチェックシート」(表)を試作した。一度に5 名分の記録をつけるため、なるべく簡便な書式にしている。
 この調査研究事業は、老健施設による認知症リハビリの新たな挑戦である。皆さんには、ここで行っているさまざまな工夫などを参考にして、ぜひ、現場での実践を深めていただきたい。

機関誌『老健』平成23年2月号掲載

高齢者の投薬コントロールについて―糖尿病事例を通して―レポート

(第4回老健医療研究会)
高齢者の投薬コントロールについて―糖尿病事例を通して―
大庭建三
日本医科大学老年内科教授

■70歳代後半の方には薬の見直し、減薬の心構えを

 私は高齢者の薬物療法の専門家ではないが、糖尿病が専門なので、その観点から高齢の患者を診るときの注意点について事例などを交えながら説明する。
 人間は、加齢に伴い身体の組成が変わってくる。どういうことかというと、加齢によって細胞や筋肉量が減って、相対的に脂肪の量が増えるのである。筋肉のなかには水分が入っているが、それも少なくなってくる。それから当然、加齢によって生理機能が落ちる。
 こうした影響を受けて薬の作用の仕方が変わってくる。要するに有害事象が起こりやすくなるので、高齢者には注意が必要だ。また、認知症や生活機能の衰え、うつなどさまざまな身体的要因などの影響もある。高齢者に対しては、それらを総合的に考えながら若い人とは異なる対応をしなければいけない。
 特に70歳代半ばを過ぎると、著しく生理機能が落ちてくる。すると、それまで適量だった薬が過量になることが非常に多い。つまり後期高齢者に入る頃には、今まで問題なく使えていた薬を見直し、減薬する心構えを忘れないようにしていただきたい。

■医師だけでなくコメディカルも情報収集を

 次に、高齢者の投薬について、東大病院の老年病科科長・大内尉義教授がまとめた「高齢者における薬物療法の原則と注意」(『老年病ガイドブック』メジカルビュー社)を参考にお話しする。
 大内教授は、①薬物服用歴を詳細に聴取する(他院・サプリメント・漢方薬)、②投与薬剤の体内動態および薬力学の加齢変化を正しく知る、③診断を確実にした後に薬物投与を開始する、④初回投与量を少なくし、その後も頻回に調整する、⑤投与数をできる限り少なくする、⑥服用法を簡明にする、⑦薬剤間の相互作用や疾患との相互作用を常に監視し有害事象の発現を防止する、⑧服薬アドヒアランスに注意する、⑨高齢者に多い症状(老年症候群)を起こす薬剤に注意する――といった9 つの原則と注意点を挙げている。
 私はさらにこれに、⑩高齢者はいつでも薬を減量する心構えを忘れない、を加えたい。
 ①については、当然だが、薬をなぜのんでいるかをまずチェックしなければいけない。ただし老健施設の職員は、利用者の服用歴など薬に関する情報を把握し切れていないことが想像される。ましてやデイケアなど施設の一時的な利用者については、かなり情報が不足しているだろう。難しいだろうが、これは医師だけでなく、コメディカルも日々そうした方に接する際に注意して、情報収集に努めることが大事だ。
 このような例がある。71歳の男性が、がんで胃を摘出した6 年後に糖尿病になった。近くの医師にかかり、α‐グルコシダーゼ阻害薬という糖の分解・吸収を遅らせて血糖値を下げる薬が出された。この薬の特徴は、糖の分解を抑えるのでだんだん腸の下のほうにブドウ糖が流れて発酵し、腹部が張る副作用があることだ。この点に注意が必要だが、非常によく使われている。その薬をのみ始めたところ、5 年間で18回も腸閉塞を起こし、そのうち7 回入院し2 回手術をした。
 この方が腸閉塞で私を訪れたので、薬の副作用を疑って投薬をやめたところ、その後2 年間まったく異常が起こっていない。高齢者にはこうした思いがけないことがある。何かあったときにはいつも、薬との因果関係を考えなければいけない。

■身体の加齢変化を正しく知ることが大事

 前述の②に関連して、薬を使う上では身体の加齢変化を正しく知ることも大事だ。冒頭で触れたように、加齢とともに人間の細胞は減っていく。それによって臓器も小さくなり、機能が落ちてくる。これが老化の本態だ。さらに、相対的に脂肪が増えてくる。こうしたことは当然、薬の作用にも影響してくる。
 細胞は中心に核があり、周りに細胞質がある。細胞質は水分を多く含んでいるので、高齢者は細胞の数の減少に伴い、身体に蓄えられる水分の総量は減少する。
 高齢者はよく脱水症状を起こすが、それはなぜかというと、人間は脱水を起こして細胞外液(血管にある水分など)が足りなくなると、細胞内液の水を一時的に借りて補充する。しかし高齢者は、細胞が減少している分、水分を貯める容量が少ないため、細胞内液を使っても足りず、脱水症状から熱中症まで起こしてしまうのだ。
 さて、薬は消化管を通して身体に吸収されるが、高齢になってもその吸収量は臨床的に大きな問題になるような落ち方はしない。すると、水溶性の薬物であれば細胞の水分量が少ないため、若い人と比べて濃度が高くなり、副作用が起こりやすい。また、脂肪量の相対的な増加は、脂溶性の薬物であれば脂肪に蓄積されるため身体に長く残存することになる。
 さらに、加齢で栄養状態が落ちてくると血清のアルブミンが減少する。薬をのむと、その一部がアルブミンに結合する。結合した薬の成分は身体に作用せず、遊離した成分が働くのだが、高齢者はアルブミンが少ないため遊離する割合が高くなり、薬の血中濃度が上がる。
 そして、薬の代謝に最も大きく影響する臓器は肝臓と腎臓だ。肝臓を通るとかなりの薬物が代謝される。しかし、加齢とともに血流量や薬物代謝酵素が低下するため、薬物代謝が悪くなって血中に残りやすくなる。また、同様に腎臓の機能も著しく低下する。
 アメリカのショック医師が研究したところ、加齢ですべての生理機能は直線的に落ちるが、特に腎機能の落ち方が著しい。30歳の腎臓の機能を100とすると、80歳ではその半分以下の機能しかなく、腎臓が代謝し切れず薬物が蓄積しやすくなる。高齢者を診る際には、こうしたことを頭に入れておくことが基本だ。

■服用を1 回にした場合のみ忘れの影響が大きくなる

 鳥羽研二国立長寿医療研究センター病院長が杏林大学にいらっしゃった頃、現在、東京大学医学部附属病院老年病科准教授の秋下雅弘先生と行った調査では、「加齢とともに副作用が起こりやすくなる」ことや、「多く薬をのんでいれば副作用が起こりやすくなる」ことがわかった。当然のような話だが、その関係がデータできれいに表れた。
 前述の⑤〜⑧に関係するが、つまり副作用を抑えるには、なるべく服用の数を減らすことが大切だ。そして、以前はコンプライアンスと言っていたが、薬をきちんとのむというアドヒアランスが必要になる。
 それに関連して、私の苦い経験を紹介する。私は、糖尿病薬の服用について、服薬回数を少なくするほうが高齢者にとって福音になると考えた。
 スルホニル尿素薬のグリクラジドという糖尿病の強力な治療薬がある。これは効果が長く続くのが特長だが、40ミリ錠を2 錠のむ場合、朝に1 回のむのと朝夕に分けてのむ場合の作用が同じか調べた。結果はまったく変わらなかった。さらに強力なスルホニル尿素薬でも同様に変わらなかったので、2 回のむ必要はなく、1 回でよいと考えた。
 その論文を書くために多くの本を読むうちに、高齢者も若い人も、薬ののみ忘れの頻度はあまり変わらないことがわかった。そして、服用が1 日に1 回と2 回の場合は、7 割の人がきちんとのんでいる。いろいろな研究者のデータを見ると、それを3 回にするとのみ忘れる方が急増していた。多くは昼にのみ忘れるようで、私の目論見は外れてしまったのだ。
 さらに、私は服用が1 回のほうがよいと考えたが、その場合はのみ忘れたときの影響が大きくなる。2 回に分ければ、1 回忘れたとしても半分はのんでいるので、そのほうが安全だという考え方もできるようだ。

■加齢で薬の代謝に必要な酵素の活性も落ちる

 また、薬の種類を多くのめばそれだけ相互作用が増え、有害事象が起こりやすくなる。これは先述した「薬の数が増えれば増えるほど副作用が多くなる」ことと同じ機序だ。
 例えば、スタチンというコレステロールを下げる薬がある。それにはいろいろな種類があるが、脂溶性のものと水溶性のものに大きく分けられる。水溶性のものは代謝されやすい。脂溶性のものには、肝臓のCYPという酵素を介して代謝されるものと、代謝に酵素が必要ないものがある。加齢で酵素の活性が落ちるので、脂溶性でCYPが必要な薬を高齢者がのんだ場合、血中濃度が若い人よりも高くなるだけでなく、身体に長く残存しそうだということになる。そうなれば、もちろん有害事象が起こる可能性は高まる。
 スタチンは安全性が比較的高い薬のため、この程度で深刻な副作用が出ることはないが、別の薬と組み合わせた場合に問題が生じる。
 例えば、スタチンのように脂溶性でCYPの代謝が必要な薬は多い。そうした薬同士を複数同時にのめば、両方で酵素を使うため代謝する能力が落ちる。さらに、それまでそうしたCYPを介して代謝する薬をのんでいるところへ加えて、例えば、爪白癬(爪のカビ)の薬であるイトラコナゾールのような、CYPの代謝を抑制する作用のある薬をのむと、どちらかの副作用が起こりやすくなるのだ。
 1つの例を挙げる。高齢者は調子がよければ、急激に副作用が出ることはそれほど多くはない。新しい薬であれば服用を始めてから1 〜 2 か月以内、もしくは薬の量を増やした際にも多く起こる。
 ところが、私の69歳の男性患者で、22か月も薬をのみ続けていて、急に腸閉塞を起こした方がいた。なぜか。実はこの方は重い糖尿病で、神経や腎臓にも症状が出るほどだった。生理機能も非常に落ちていた。それに加え、入院後に「風邪を引いたから薬がほしい」と言われた当直医が総合感冒剤を出した。この薬には抗ヒスタミン剤が含まれていて腸の動きを抑える作用があったため、腸閉塞を起こしてしまったのだ。
 このように、今ままで服用していた糖尿病薬には何も問題はなかったが、生理機能が非常に落ちている方だったので、風邪で出した総合感冒剤との思いがけない相互作用から重病を引き起こしてしまったのだ。
 高齢者はさまざまな場合に薬が増えるため、相互作用についても念頭に置いておかなければいけない。しかし、副作用を生じるすべての薬の組み合わせを把握しておくことは難しい。そこで必要なのは、副作用を生じやすい薬の組み合わせを覚えるのではなく、新しい薬を出して何らかの事象が起こったときにはまず、薬の相互作用を疑うということだ。

■薬が引き起こす可能性のある高齢者に多い症状とは

 次に、高齢者に多い症状を惹起する薬剤について紹介する。
 患者や利用者が「何かおかしなことを言っている」ということがあれば、「あの人もいい年だから」では済まさないでいただきたい。そうしたときには、70歳代半ばを過ぎて薬の量が多くなったのではないか、何かほかの薬を増やしていないか、薬の投与を間違えていないか――と疑うことが必要だ。繰り返しになるが、高齢者で思わぬ症状が出たら、薬が関与していないかを必ずチェックすることが基本だ。
 これも大内教授がまとめた「高齢者における薬物療法の原則と注意」を参考にするが、高齢者に多い「錯乱症状」や「うつ病」、「転倒」、「起立性低血圧」、「便秘」、「尿失禁」、「パーキンソン病」のような症状を、薬が引き起こしていることがある。
 例えば、血圧を下げるβ遮断薬を処方すると、転倒することが少なくない。転倒は、血圧の薬だけでなく抗精神薬でも起こるし、私の経験では心不全で使用する利尿薬でも非常に多い。つまり、夜間などにトイレに行く回数が増えることで転倒につながるというように、薬の作用によらない転倒の危険もある。
 また、薬の作用で血圧が下がったり、便秘をしたりすることは多い。普段は失禁しない人がした、歩き方がおかしい、手が震えている、といったことに気がついたときは、「新しい薬が加わったためではないか」と考える必要がある。

■回復力が悪いことも高齢者の特徴

 1つ例を挙げる。私は月に2 回、関連する老健施設を訪れるが、そのときに職員から「○○さんはご飯を食べると、食後に時々てんかんを起こします。ちょっと診てください」と言われた。普通に考えれば、それまでてんかんがなかった人が、高齢になってから急にてんかんになることはない。
 しかし、食事をしてしばらくすると目がだんだん上を向き、黙りこんだ後、「うっ」とうなって意識がなくなる症状は、必ず食後に起こるという。
 そこで気がついた。高齢になると食後低血圧が多くなる。その方も食事をすると腹部の血流量が増え、血圧が下がっていたのだ。血圧の薬をやめたところ、てんかんのような症状は起こらなくなった。
 大阪大学の研究では、若い人でも食後の低血圧を起こす人がいる。若い人も高齢者も同じように血圧が落ちるが、若い人はブドウ糖が吸収されるとすぐに血圧が戻るのに対し、高齢者はなかなか戻らない。回復力が非常に悪いことが高齢者の特徴だ。
 薬は私たちが考える以上に扱いが難しい。老健施設では、職員がきちんと利用者の管理をしているので問題はないかもしれない。それでも注意は必要であり、先に述べたように一時的にサービスを利用する方に関しては、特に服薬情報が不足しているだろう。そうした方には十分な注意をしていただきたい。

(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載

リハビリテーション処方箋の書き方 オーダーのこつ レポート

(第4回老健医療研究会)
リハビリテーション処方箋の書き方 オーダーのこつ
米満弘之介
護老人保健施設清雅苑理事長、全国地域リハビリテーション支援事業連絡協議会会長

■人間としての尊厳や人間性の回復、生活の自立のために

 今日の演題は「リハビリテーション処方箋の書き方」だが、「処方箋」といっても医師が一人ですべてを決めてしまうと誤解されては困る。そこで「リハビリテーションの指示・指導のあり方」と読み替えてお聞きいただきたい。また、ここに参加されている先生方のなかには、外科などの、老健施設には直接関係しないような専門分野をやってこられて施設長になった方が結構いらっしゃるようなので、大変恐縮ではあるがリハビリの基礎的な話が中心になる点はご容赦願いたい。
 リハビリは、「心身に障害のある人々の全人間的復権を理念とする」ことが目的である。同時に、「単なる機能回復訓練ではなく、潜在する能力を最大限に発揮させ、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能にし、その自立を促す」ものである。そして「自立した生活への支援を通じて、利用者の生活機能の改善、悪化の防止や尊厳ある自己実現」を図ることが非常に大事な点だ。
 一方で、「疾病・障害・加齢によって損なわれる生活機能の改善・向上をめざす」とされてきたリハビリ医療の定義が、最近少々変わってきた。その一因として、2001年にWHOが国際障害分類(ICIDH)を国際生活機能分類(ICF)に改訂したことが挙げられる。「障害」に着目していた分類の視点を、「実際に生きている人間の毎日の生活の機能」を重視する方向に転換したのである。これにより、PT・OT・ST・看護師・ソーシャルワーカー・ホームヘルパー・ケアマネジャーなどの多職種が参加し、「実用的な日常生活における諸活動の自立性の向上を通じて最高のQOLを得る」ことが、リハビリ医療の目的になってきたのである。
 すなわち「リハビリ医療=機能訓練」ではなく、機能訓練はリハビリ医療のなかのごく小さい部分になり、人間としての尊厳や人間性の回復、生活の自立が重要視されるようになってきている。

■老年症候群への生活期リハビリが老健施設の役割

 リハビリの領域は、医学的・教育的・職業的・社会的なリハビリに分けられ、老健施設においては社会的リハビリの役割が期待される。施設サービスは当然として、通所リハビリや、「リハビリの出前」である訪問リハビリが中心になる。そして障害を持った利用者を中心に、医師やPT・OT・STのリハビリ専門職種、さらにはケアマネジャーなども含めたチームで対応する。そして最近では、老健施設のリハビリに口腔ケアも入ってくるなど広がりをみせている。
 高齢者のリハビリ・介護予防の流れは、「予防的活動→治療的活動→介護的活動」の3 つに大きく区分される。予防的活動は体力低下を防ぐ介護予防などが該当し、治療的活動は急性期リハビリ・回復期リハビリなどにより、脳卒中に代表される疾病発症からの早期離床・機能回復をめざし生活自立へのバトンタッチを行う。そして維持期リハビリ・終末期リハビリの介護的活動に移る。維持期リハビリは、最近では地域包括ケア研究会報告書にあるように「生活期リハビリ」と言うようになった。ここでは生活の再建が、そして終末期リハビリでは人間としての尊厳確保が大きな目標となる。
 この3 つの区分の基盤には各々、健康増進法・老人保健事業・介護予防事業・医療保険・介護保険などの異なる制度が複雑に絡み合っていてわかりづらい部分もあるが、前述の流れは確実にできている。このうち皆さんに関係の深い生活期リハビリは、急性期・回復期のリハビリに続いて、高齢者の体力・機能の向上・改善、生活環境の整備、社会参加の促進、介護負担の軽減などに努め、高齢者の自立生活を支援するものである。その対象者は、日本老年医学会が提唱する「老年症候群」、すなわち「高齢者に多くみられ、原因はさまざまであるが、治療と同時に介護・ケア及びリハビリが重要である一連の症状、所見を指す」という特性がある。具体的には、①加齢現象、②疾病(特に生活習慣病・認知症・うつ病など)、③廃用症候群、④生きる尊厳の低下、⑤低栄養状態――に注目してほしい。
 このなかで⑤は、私が最近特に注目している点で、高齢者の栄養管理は社会的な課題だと考えている。これも含めて、老年症候群は常に急性疾患にかかりやすく、慢性疾患を抱え、要介護状態であることに十分に留意して対応いただきたい。生活機能全体をとらえた

■生活期リハビリの提供を

 こうした流れのなかで、回復期リハビリから生活期リハビリへは、ある日を境にスパッと縦に線引きして移行するわけではない。生活期リハビリは生活機能改善リハビリであり、機能回復のための回復期リハビリからは滑らかに、斜めの線を描くようにして移っていくことが非常に大事である。
 生活期リハビリを実践するうえでは、生活機能の視点、つまり基本的な日常生活活動(BADL・ADL)、手段的日常生活活動(IADL)、社会生活活動(ASL)から高齢者をとらえることが大切である。私が医師になったころは、食事やトイレが自立しているかどうかといった狭い範囲の基本的なADLに注目しリハビリを提供していたが、今は生活機能全体をとらえて、生きがいを持って社会参加していくようにつなげることが重要で、その場合にASLが大切な視点になる。そして高齢者の生活機能を見る際には、これらに認知機能の視点も加える必要がある。
 では、生活機能が低下するのはどのような場合かというと、厚労省の高齢者リハビリテーション研究会がまとめたように、脳卒中モデル・廃用症候群モデル・認知症モデルの3 つに大きく分けられる。
 このうち脳卒中モデルは脳卒中や骨折などで、疾病が起こるといきなり生活機能が落ちる。そのためできるだけ早期にリハビリを開始して回復期リハビリにつなげ、その後も断続的な生活期リハビリを行うという流れになっている。生活機能をできるだけ早く回復させ再発予防を図り、悪循環から好状態に変えていくわけである。
 また、廃用症候群モデルには廃用症候群として変形性膝関節症のようなものによって次第に落ちていく生活機能を断続的に押し上げ、低下した生活機能を戻しながらリハビリを進めていく。高齢者のリハビリではこれが非常に大事なことである。これによって生活の自立を維持していくことが、老健施設が果たすべき大きな役割の1 つである。

■リハビリの視点を持った多職種で生活全般にかかわる

 ところで高齢者の生活構造はどうなっているのかというと、1 次活動・2 次活動・3 次活動の3 つに分けられる。1 次活動は食事や入浴などのセルフケアで、生きるために行うADLである。2 次活動は仕事や家事などの役割活動で、これは加齢とともに減少していく。特に定年を迎えるとどんどん減ってしまう。3 次活動は自由時間で、2 次活動の減少に比例して増えていく部分である。
 これが非常に厄介だ。仕事や家事の役割を失って自由時間が増えたときに、一日中寝転んでテレビばかり見て過ごすなど、およそ活動とは呼べないような状態で生活を送りがちで、それが非常に恐ろしいのである。役割の消失と不活発な余暇時間が、生活期にある障害高齢者の陥りやすい生活構造であり、いかに活発な活動につなげていくかが大切である。やはり活動性を向上させるためには、リハビリの視点を持った多職種がその方の生活全般にかかわることが必要である。そして活動を活発なまま継続させることが、生活期リハビリの大きな役割となっている。

■医師は目標を定めサービス全体を管理することが重要

 改めて、老健施設におけるリハビリの考え方やマネジメント、生活期リハビリなどについて説明する。
 老健施設のリハビリは多職種協働で、医師、PT・OT・ST、看護師、介護職、栄養士、ケアマネジャーなどの多職種が協働作業で行う。これを行うためには、老健施設を支える3 つのマネジメントが重要だ。すなわちケアマネジメント(=ケアプラン)、リハビリマネジメント(=リハビリプラン)、栄養マネジメント(=栄養プラン)の3 つの歯車がうまくかみ合って動かなければならない。
 このなかで医師が果たすべき役割は、各々の専門職に対する「指示とリスク管理」である。医師は上記3 つのプランの内容をよく理解し、どういう指示が出せるのかと同時に、リスク管理をどこまでやれるのか、これがリハビリ分野における医師の大きな役割だと私は考える。
 リハビリにおけるマネジメント機能強化の考え方では、高齢者の尊厳ある生活を支援する観点から、各専門職が協働してリハビリマネジメントに関する科学的な評価結果に基づいた継続的な品質管理を行い、高齢者の要介護状態の予防や重度化の防止に貢献していくことが必要である。そのためには、まず医師がきちんとした目標を立てること。「なぜこの方は老健施設を利用されるのか」をしっかりととらえ、提供するサービスの目標を定めるのは医師の大きな役割である。そしてサービスを受ける方の自己決定権を尊重し、医療との連携や生活機能改善に向けた多職種のチームリーダーの役割も医師にはある。このほかにもケアマネジメントを注視しながらリハビリを啓発し、リハビリの品質向上につながる指示を出していくこと、すなわち、これらの全体を管理していくことが医師の重要な役割である。

■リハビリの指示ではセラピストを納得させる処方を

 では、老健施設におけるリハビリ指示の実践とポイントは何か。それについてお話ししよう。
 まず、身体機能評価・ADL評価・精神機能評価・生活環境評価などを踏まえたリハビリの評価を行う必要がある。そして、日本リハビリテーション医学会の『リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン』に基づくリスク管理を実践してほしい。それは事象の発生予防のためではなく、発生時や発生後の一連の取り組みであり、医療の質の確保を通して組織を損失から守ることを目的としているもので、注意事項・禁忌事項やリハビリの中止基準、積極的なリハビリを実施しないケースなどが挙げられている。詳細は各自でご確認いただきたい。
 そして対象者の特性に応じたリハビリの処方(指示)を行うことが大事である。リハビリ処方は薬剤の処方と異なり、リハビリの知識を持たない医師にとっては簡単ではない。医師の処方に従い利用者を治療することになるセラピストは、不合理な処方には苦労する。リハビリ処方を出す医師には、リハビリの知識を十分に身につけてほしい。それは医師自身の努力なしでは成し得ない。
 リハビリ処方箋の書き方では、治療目的を明記し、セラピストを納得させる処方にしなければならない。経験不足のセラピストには詳細な処方を記載する必要があり、セラピストの限界を超えた処方は出さないこともポイントとなる。そして禁忌事項・注意事項をきちんと示しリスク管理すること、ハイリスクの利用者とはよく話し合って処方を行うこと、手技や器具の選択に関する細かい指示よりもポイントを踏まえた指摘を盛り込むことなどが要点だ。一方、リハビリ職は、リハビリ処方箋の内容に不備・不明な点がある場合は、迅速に医師と内容確認を行い必要に応じて修正することが肝要である。

■多職種協働のチームで行動変容の実現をめざす

 われわれ老健施設の最終目的は「運動機能の向上」ではなく「行動変容」である。行動変容は生活そのものであり、生活の自立のための行動変容を大きくとらえておかなければならない。この点を肝に銘じて、老健施設の医師に課せられた大きな役割はそれに向けた目標設定であると覚えていただきたい。
 目の前の利用者の生活の自立を高めるために、どういう目標を設定し、どのようなリハビリを提供していくのかであるが、それはその方の評価、つまり課題をどこまで分析できているかに左右される。それにはアセスメントが重要である。ケアマネジャーと一緒に進めていくなかで、医師として医学的なアセスメントをしっかりと行うことが大切である。その際は、個々に異なる環境の調整や、その後の生きざまなどを具体的にとらえて評価することが重要で、それをどこまでできるのかが鍵になる。
 そして先ほど述べたようなリスク管理を行いながら包括的な指示を出して、多職種協働のチームでゴールに到達することをめざしてほしい。それが老健施設のリハビリのあり方と考えられる。

(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載

全国大会・老健医療研究会共催シンポジウム レポート

(第4回老健医療研究会)
全国大会・老健医療研究会が初の共催シンポジウムを開催

■各職種に共通する「感染症対策」をテーマに

 老健医療研究会は、老健施設における医療のあり方等に関する学術的・専門的な研究発表を目的に、第18回全国介護老人保健施設大会愛知の際に発足した。過去3 回は全国大会の初日に単独で開催していたが、今回初めて、全国大会との共催シンポジウムを開いた。テーマは「老健施設の感染症対策」で、3 名のエキスパートが順に登壇して講演し、フロアの参加者との活発なやり取りを交えながらプログラムは進行した。
 開催にあたり、司会の江澤和彦老健医療研究会幹事は、「本日は全国大会と老健医療研究会による初めての共催シンポジウムとして、各専門職がディスカッションしやすい感染対策のテーマを選んだ。積極的な意見交換や質問などを期待したい」と述べた。

■手洗いの励行やワクチン接種など改めて感染症対策の徹底を

 まずトップバッターとして岸本寿男岡山県環境保健センター所長が壇上に立ち、「インフルエンザと感染性胃腸炎」について講演した。
 岸本氏は、①平成21年からの新型インフルエンザパンデミックの総括と今後の対策、②老健施設でのインフルエンザ対策、③冬場に多い感染性胃腸炎(特にノロウイルス感染症)の対策――について話した。
 岸本氏は、「インフルエンザの予防法を改めて思い起こしてほしい。すなわち十分な睡眠・休養を取り、部屋を暖めて加湿し、人混みはできるだけ避ける。さらにインフルエンザワクチンを早目に接種すること、咳エチケットを徹底することも大事だ。そして昨年はインフルエンザの予防のための手洗いが広く励行され、ノロウイルスをはじめとする感染性胃腸炎も非常に少なかった。石けん等を利用したこまめな手洗いという基本中の基本をもう一度徹底してほしい」と述べた。
 つづいて、大石和徳大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター臨床感染症学研究グループ特任教授が登壇し、「肺炎予防」をテーマに発表を行った。
 大石氏は、「高齢者は肺炎の罹患率が非常に高く、その原因となるインフルエンザ後の二次性肺炎、誤嚥性肺炎には特に注意してほしい。肺炎の予防では、手洗いの励行、口腔ケアの徹底、肺炎球菌ワクチンの接種が推奨される」と指摘。そして23価肺炎球菌ポリサッカライドワクチン(PPV23)について、従来は有意な肺炎リスクの低下が証明されていなかったが、最近の調査では、75歳以上の高齢者の肺炎エピソードおよび肺炎による入院頻度を低下させ、65歳以上の高齢者の肺炎による医療費削減効果が見られるとし、「少なくとも75歳以上の高齢者の肺炎予防として23価PPVを推奨できる」と説明した。
 最後に、渡邉都貴子岡山大学病院看護部・感染制御部感染管理担当師長(感染管理認定看護師)が、「老健施設における感染対策」と題して講演した。このなかで渡邉氏は、高齢者の感染を考えるうえでは、①加齢による変化は、感染リスクにかかわる身体の主なシステムの変化を伴う、②感染リスクとなる侵襲的器具や薬剤の使用が増加する、③施設への入院・入所は病原体の伝播を受ける可能性を増し、多剤耐性菌のアウトブレイクに関与することもある、④糖尿病・神経疾患・脳血管疾患などの感染リスクを高める基礎疾患を持っている、⑤高齢者に多い栄養不足は細胞性免疫を低下させる、⑥高齢者には罹患率・死亡率を低下させるためのワクチン接種が重要――などをポイントに挙げた。
 そして「地域の医療・介護の機能分化・連携が進むなかでは、患者・利用者は各施設を移動していく。そのため、もはや一施設だけで感染管理を徹底するのは難しく、地域で連携して対応していかなければならない」と強調した。
 その後、会場からは尿路感染症や肺炎球菌ワクチン、ノロウイルス、インフルエンザなどに関する質問が相次ぎ、予定の時間を20分あまりオーバーして活発な質疑応答が行われた。

機関誌『老健』平成23年2月号掲載

高齢者の摂食嚥下と栄養管理 レポート

(第4回老健医療研究会)
高齢者の摂食嚥下と栄養管理

梶谷伸顕
独立行政法人自動車事故対策機構岡山療護センター外科、NSTくらしき作陽大学客員教授

■万病に効く薬はないが、栄養管理は万病に効く

なぜ栄養管理が必要か。日本静脈経腸栄養学会の初代理事長である小越章平医師は、「栄養管理はすべての医療の基本」と言った。万病に効く薬はないが、栄養管理は万病に効く。それくらい重要なことだ。高齢に伴う身体の変化は、まず「基礎代謝量の減少」が生じ、また「糖、たんぱく、脂肪代謝の変化」が起こる。特に糖と脂肪の代謝が低下する。さらに、「LBMの減少」といって、脂肪を除いた骨格筋、骨、内臓などの重量が減少する。最近、「サルコペニア(筋肉の減少)」という言葉を耳にするが、これによってさまざまな障害が起こる。そして腎機能が落ちる。腎機能低下や低たんぱく血症などにより浮腫が起こる。脱水が起こりやすい。低ナトリウム血症を生じることもある。また、アミノ酸の代謝は年を取っても比較的保たれるといわれるが、だからといってアミノ酸(たんぱく)をあまり入れると、腎機能が落ちているのでBUN、クレアチニンが高値となり腎障害を合併する危険性がある。そのほか臨床検査基準値を見ると、成人と比べて血清たんぱく、アルブミンが低く低栄養状態を表し、また白血球も低いことから免疫力が落ちていることがわかる。老健施設における問題は、栄養管理と摂食・嚥下障害のある方のリスク管理だろう。栄養状態の悪くなった高齢者に対し、栄養管理上、エネルギー消費量と投与カロリーを決める方法として一番多く使われるのが「ハリスベネディクト公式」だ。しかし、これは日本の明治時代頃に欧米でつくられたものなので、日本人にはやや合わない面もある。実用上は、さらに活動係数やストレス係数を掛けて調整するが、簡易式では体重1 kg当たりに20〜25をかけることで投与カロリーを決めることも可能だ。最近の栄養管理では、「NST栄養サポートチーム)」を取り入れるところが多い。アメリカでダドリック医師が中心静脈栄養を考案した後、チーム医療の必要性からスタートしたこの方法は、感染防止を含め患者の管理を医師だけで行うのは難しいということが発想の原点である。全身のトータルケアは看護師が、栄養管理は管理栄養士が、薬剤は薬剤師が担当する。従って多職種が連携したチームができ上がった。また摂食・嚥下訓練、口腔ケア等で歯科医師・歯科衛生士・STが、リハビリではPT・OT等々が参加し、さらに多職種へと広がっている。さて、栄養管理では、リンパ球数が1,200/μL以上でBMIが標準の22から10%程度低いところをめざしている。標準体重より低めにしているのは、投与カロリーが筋肉増強に行かず、脂肪、特に内臓脂肪蓄積の予防を考えてのことである。ただし、大事なのはこうした方法の厳守ではなく、栄養管理に着目し重要視することだと思っている。

■最近の栄養管理のキーワードはサルコペニア

 摂食・嚥下障害における問題は、「誤嚥性肺炎」、「脱水、低栄養」、「食べる楽しみの喪失」だ。特に、口から食べられないことが一番の問題だと思う。こうした管理を行う場合、歯科医師や歯科衛生士の協力が必要であるし、STなどにも参加してもらってチーム医療としてあたるのがよい。さて、誤嚥性肺炎の患者の50%はむせるなどの症状を呈さないとされ、経験豊富なスタッフでも、ベッドサイドの診察だけでは約40%の誤嚥を見落とすといわれている。老人性肺炎を起こした患者の70%が不顕性肺炎であったという調査もある。こうしたことから、高齢者の場合、肺炎を起こした患者の多くは不顕性肺炎が多く注意が必要だ。また、誤嚥性肺炎の菌と口腔内の菌は同じといわれている。つまり、口のなかの菌が肺に入って肺炎を起こしていると考えられる。歯垢(デンタルプラーク)1 gに100億〜1,000億の菌がいるので、口腔ケアは重要だ。こんな調査がある。全国11か所の特養に入所する366名を対象に、2 年間にわたって週に1 回、歯科医師もしくは歯科衛生士による専門的な口腔清掃を行ったグループとそうでないグループを比較した。すると、口腔清掃を行ったグループでは「7 日以上の発熱」が15%、「肺炎」が11%、「死亡」が7 %の方に起こったのに対し、そうでないグループは、それぞれ29%、19%、16%と高い率で発生した。口腔ケアの重要性が示された調査結果といえよう。高齢者に対する最近の栄養管理では、前述した「サルコペニア」がキーワードだ。サルコペニアになると基礎代謝量が減少し、摂食量が減る。すると、あまり動かなくなってまた摂食が減り、たんぱく質合成量が低下して、さらにサルコペニアが進むという悪循環を起こす。これをどこかで断ち切らなければいけない。

■栄養管理の目的は口から食べてもらうこと

 栄養摂取の基本はなるべく口から食べてもらうこと。それができない場合には、静脈栄養や経腸栄養があり、後者の投与ルートとしては経口・経鼻経管・胃ろうなどの方法がある。静脈栄養は施設では難しく、経鼻経管栄養は私の経験上からも大変な苦痛がある。患者の状態によってはチューブの抜去予防に抑制することもあるため、この方法はできるだけ避けるべきだ。胃ろうについては、単なる栄養補給ルートとしては使うべきではないと考える。目的として摂食・嚥下訓練であったり、終末期における緩和医療であるならばよいのではないか。こうしたことから考えると、施設では経腸栄養が望ましい。また、最近は半固形化の栄養剤にも注目が集まっている。液体経腸栄養剤と比較して合併症である下痢も改善し、胃食道逆流もすべてではないが予防でき、また短時間で栄養を摂取できるなどの利点があり、短時間投与によりリハビリ時間の獲得や体位変換による褥創予防につながる。水分の補給については、とろみをつけるとよいだろう。経口摂取への移行については、当センターでは交通事故後の若い入院患者が多いため、経口摂取の訓練をすると25%くらいの方が移行できる。また私は老健施設・療養病床でもNST活動をしているが、経験では10%くらいの方は経口摂取ができるようになり、食べる楽しみを取り戻すことができる。将来的には年齢・基礎疾患などで再び食べられなくなる可能性は高いが、トライする価値はある。われわれが栄養管理を行う目的は、やはり口から食べるようになってもらいたいからだ。多職種のチーム医療で、ぜひ、この目標に向かって取り組んでいただきたい。

(第4回老健医療研究会)
機関誌『老健』平成23年2月号掲載

全国大会・老健医療研究会合同プログラム指定演題発表 レポート

(第4回老健医療研究会)
全国大会・老健医療研究会の合同プログラムで指定演題発表が行われる

■終末期、認知症、老健施設の医療、在宅生活支援、リハビリの5演題大会

 2 日目の11月11日の午後には、全国大会・老健医療研究会合同プログラムとして、次の5 つの指定演題が発表された。
指定演題①「高齢者の終末期ケア」
 平川仁尚氏(名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター特任助教)
指定演題②「認知症」
 玉井顯氏(敦賀温泉病院・介護老人保健施設ゆなみ理事長)
指定演題③「老健施設における医療行為」
 藪野信美氏(老人保健施設岡山リハビリテーションホーム管理者)
指定演題④「医療と在宅生活支援」
 佐藤龍司氏(介護老人保健施設しょうわ理事長)
指定演題⑤「介護老人保健施設のリハビリテーション」
 野尻晋一氏(介護老人保健施設清雅苑副施設長、熊本機能病院総合リハビリテーションセンター副部長)

■5名の専門家が老健施設の現状や課題に言及

 このうち平川氏は、高齢者の終末期の定義や緩和ケアの定義などを示し、高齢者の緩和ケアでは、身体的苦痛・精神心理的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルペインの4 点への対応が求められると説明した。そのうえで、多忙な業務のなかで高齢者の苦痛症状を短時間かつ正確に評価するためのツールとして、名古屋大学と愛知淑徳大学で共同開発した「名古屋式高齢者苦痛可視化スケール」を紹介。これは食欲不振・不眠などの28の苦痛症状の程度を漫画で3 〜 5 段階にわかりやすく表現しているのが特徴で、同助教の研究室ホームページ(http://hirakawa-lab.org/)からダウンロードできる。
 一方、玉井氏は、福井県若狭町が2005年から町を挙げて認知症に取り組む「プロジェクト若狭」について報告。認知症サポーター養成講座などの啓発活動が進み、敦賀温泉病院を受診する認知症患者は重度者が減り軽度者へとシフトしている状況にあるとして、早期発見・早期対応のためにも、「こうした地域の認知症システムや認知症を正しく知るための活動が、徐々に周辺の町へと拡大していってほしい」と述べた。
 また、指定演題③では藪野氏が、「老健施設の医療は、包括払いのなかでの日常的な管理と不測の急変への対応が中心になる。管理医師は、施設の人員体制・設備などを勘案して適切な医療の提供に努めなければならない」と発言した。さらに、「急性期病院の在院日数の短縮が進み、老健施設入所者は重症化し医療ニーズが高まっている。入所者の状態像がこのように変化するなかで、包括外の薬剤処方や他科受診などによる老健施設の負担は増加している。これらの改善などに、今後しっかりと対応していく必要がある」と、制度見直しの必要性にも触れた。
 続いて佐藤氏が登壇し、「われわれはやはり利用者のニーズに的確に応え、在宅生活にいかに移行させるかを重視し、地域包括ケアの中核施設としての役割を担う必要がある。例えば、地域で生活する方が困ったときにはいつでも入所してもらい、また元の生活に戻っていただく。高齢者はこの繰り返しのなかで次第に衰弱していくため、最期の看取りもきちんと行う。これが地域に本当に必要とされる老健施設のサービスだと考えている」と語った。
 そして指定演題の最後は、野尻氏が老健施設のリハビリテーションに関する発表を行った。このなかで野尻副施設長は、「中間施設としての通過機能、入所後の在宅支援機能、場合によっては次の施設へとつなぐ待機入所などの役割をわれわれは担っている。なかでも、通所・訪問・その他のさまざまなサービスと連携して在宅支援を行うことが最も重要である」と述べ、それに向けた自施設の取り組みを紹介。その上で、「食事・入浴・排泄・栄養をきちんと押さえた対応を行い、利用者の生活全般にしっかりとかかわっていくことが大切である」と話し、合同プログラムを締めくくった。

機関誌『老健』平成23年2月号掲載

第4回老健医療研究会 開催のお知らせ

第4回社団法人全国老人保健施設協会医療研究会
(第4回老健医療研究会)
<老健医療研究会会員向け 有料プログラム(事前申込が必要です)>

日 時 2010年11月10日(水)  12:55 〜17:00

会 場 ホテルグランヴィア岡山 3階「クリスタル」

定 員 246名

参加費  10.500円(資料代・消費税込み)

申込方法 大会ホームページよりお申し込みください
(URL:http://www.convention-w.jp/roken2010/)

全国大会・老健医療研究会 合同プログラム「演題発表(医療関連・口演)」

全国大会・老健医療研究会 合同プログラム「演題発表(医療関連・口演)」

日 時 2010年11月12日(金)  9:00 〜12:00、13:30 〜15:00(予定)

会 場 ホテルグランヴィア岡山 3階「クリスタル」

※ 演題発表(口演)のうち、医療関連テーマの演題は本セッションでの発表となることがあ

りますので、あらかじめご了承ください。

全国大会・老健医療研究会 共催シンポジウム「老健施設の感染症対策」

全国大会・老健医療研究会 共催シンポジウム「老健施設の感染症対策」

日 時 2010年11月11日(木)  16:00 〜18:00

会 場 ホテルグランヴィア岡山 3階「クリスタル」

全国大会・老健医療研究会 共催シンポジウム「老健施設の感染症対策」

■シンポジスト:

○岸本 寿男(岡山県環境保健センター 所長)

○大石 和徳( 大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター 臨床感染症学研究グループ 特任教授)

○渡邉 都貴子( 岡山大学病院 看護部・感染制御部 感染管理担当師長感染管理認定看護師)

■座長:

○江澤 和彦(老健医療研究会 幹事)